第3話 夢


翌日の夜、二人は再び道中で野宿をすることになった。アルベルトは草原の上に簡単な寝床を作り、焚き火を囲んで静かにその炎の揺らめきを見つめていた。アランは小さな木の枝を拾って火にくべながら、何度もアルベルトの顔をちらりと見ては、まだ心の中で何かを抱えているようだった。


「アルベルトさん、これから先、どうなるんでしょうか…?」アランがぽつりと呟いた。


「どうなるんだろうな。」アルベルトは穏やかに答えた。「でも、今は進むしかないだろう。あの魔物のこともあったし、まだ気を抜けない。」


アランは深くうなずき、火の温もりを感じながら少しだけ安心したように見えた。その後、二人は眠りについた。アルベルトは目を閉じ、心地よい疲れとともに眠りに落ちていった。


だが、彼が目を閉じていた時間の中で、全く異なる場所へと意識が引き寄せられていった。最初はただの暗闇だったが、次第にそこに青い光が差し込み、奇妙な感覚が広がっていく。ふと気づくと、アルベルトはどこか見覚えのある場所に立っていた。周りには青く輝く光の粒子が舞い、空気がひんやりとした清涼感を帯びていた。


「ここは…?」アルベルトが呟くと、突然、目の前に美しい青色を纏った巨大な蛇が現れた。蛇の鱗はまるで青い宝石のように輝き、その目は深い瞳孔を持ち、何千年もの知恵を秘めているかのような冷徹さを湛えていた。


「お前は…誰だ?」アルベルトはその不思議な存在に驚きながらも、冷静を保とうとした。


「私は、力を求める者に力を与える者。」蛇は静かに答え、その声は響くように感じられた。「お前の心には、欲望と決意が感じられる。お前には、何かを成し遂げるための力が必要だろう?」


アルベルトはその言葉を噛み締め、少しだけ考えた。「力…」


「その通りだ。」蛇は続けた。「だが、私が力を貸す代わりに、お前にはいくつかの条件を課す。」蛇の声が少しだけ重くなる。「お前には、私が与える力を使い、様々な力を喰らい、吸収する役目を果たしてもらう。」


アルベルトはその言葉に驚き、眉をひそめた。「力を…喰らう?それがどういうことだ?」


蛇はその目を細め、静かに続けた。「お前が喰らうべきは、他者の能力や力だ。お前の持つ能力で、それらを奪うことができるだろう。だが、注意しろ。それが強大なものほど、消化するのが難しくなるだろう。」蛇は少しの間、沈黙した後、再び言葉を続けた。「お前はすでに、村で食った特殊な魔物を喰らった。あれは、雷魔法の力を持っていた。それを使ってみるがいい。」


アルベルトはその言葉に驚き、目を見開いた。「雷魔法?」


「そうだ。」蛇はゆっくりと頭をうなずかせた。「それを使うことができれば、お前は私の力を一部受け入れた証となる。それを使いこなすことが、次のステップになる。」


アルベルトはその言葉を心に刻んだが、まだ理解しきれない部分もあった。「その力を使うには、どうすればいいんだ?」


蛇は少しだけ微笑んだように見えた。「それはお前が自分の力を引き出す方法を見つけることだ。私が教えるのは、あくまでそのきっかけに過ぎない。だが、もっと大きな力を求めるのなら、特に十二支の動物たちや、宗教的な神々の力を喰らうことが必要だ。」


「十二支や神々の力を…?」アルベルトはその言葉に困惑した。だが、蛇の目からは強い意志が感じられ、アルベルトはその目をしばらく見つめた。


「そうだ。それが私の望むものだ。」蛇は言葉を続ける。「お前が力を求めるなら、私はそれを与える。しかし、その代償として、力を喰らい続けることを忘れるな。」


アルベルトはしばらく黙って考えた。そして、心の中で決意を固めた。「分かった。」彼は静かに言った。「その契約を、受け入れる。」


蛇はその言葉を聞いて、目を輝かせた。「よし、契約成立だ。」そして、蛇の姿がゆっくりと消えていくと、アルベルトは再び暗闇の中に戻っていった。


目を覚ました時、アルベルトはまだ眠っているアランの横で目を開け、ふと自分の手のひらを見つめた。彼の中には、確かに何か新しい力が宿っているように感じられた。雷魔法の力が、自分の中で静かに眠っているかのようだった。


「試してみるべきか。」アルベルトは小さく呟き、力を使う準備を始めた。


その時、彼の心の中で、蛇の声が再び響いた。「お前が選んだ道に後悔はないか?」


アルベルトは手のひらをじっと見つめ、心の中で冷静に考えた。蛇の声が響いたその瞬間、彼は自分の中で新たに得た力を試してみる決意を固めた。雷魔法の力、あの魔物から食らった力がどのように自分の中に宿っているのかを確かめるために。


手を前に出し、深く息を吸い込む。自然の中で響く風の音と、遠くで鳴く夜の動物たちの声が、彼の周囲の静けさを包み込んでいた。アランはぐっすりと寝ており、そのまま眠り続ける気配を感じながら、アルベルトは魔力を手のひらに集め始めた。


「雷魔法か…」アルベルトは小さくつぶやきながら、手のひらを前方に向けた。心の中で雷の力を引き出すイメージを描く。蛇の言葉が反響するように、彼の中にあった雷の力が少しずつ目覚めていく感覚があった。最初は小さなうねりのようなものが手のひらに集まり、徐々にそれが形を作り始める。


「来い…」アルベルトの心が引き締まる。その時、手のひらから一筋の青い閃光が飛び出し、夜空を裂くように強烈に光った。


「う…うおお!」アルベルトはその閃光に驚きつつも、無理に制御しようとするが、その力はすでに強大で、彼の想像を超えていた。雷の力が暴れ出し、彼の手から飛び出す勢いが強く、地面を揺らすほどの威力を持っていた。アランはその音に目を覚まし、驚きの表情を浮かべた。


「アルベルトさん、何をしたんですか!?」


アルベルトは息を整えながら、ゆっくりと手を下ろし、その雷の力を収束させる。目を見開いたアランを見て、彼は苦笑しながら言った。「すまん、少しやりすぎたみたいだ。」


アランは驚きと困惑が入り混じった表情を見せた。「でも、すごい力です…まるで雷のようでした。」


「雷魔法だ。」アルベルトは静かに言った。「俺があの魔物から食らった力だ。多分、これが俺の力の一部なんだろう。」


アランはその言葉をしばらく考え込んでから、少し安心したようにうなずいた。「でも、それが本当に役立つのか分からないですよね。危険すぎませんか?」


アルベルトはその指摘に頷き、しばらく黙って考えた。「危険だ。でも、俺にはこれしかない。力を持つことの代償は、常に危険と隣り合わせだ。でも、これで俺は強くなった。誰かを守れる力を手に入れたんだ。」


アランは少しだけ頷いたものの、まだ不安な表情を浮かべていた。「でも、その力を使いこなすのは難しいですよね?俺にはどうしてもその力を制御できる気がしません。」


「それは俺も同じだ。」アルベルトは穏やかに答えた。「でも、使いこなせなければ、意味がないだろう。これからは、力を使うことを学んでいくしかない。」


その後、アルベルトは雷魔法を何度か試し、少しずつその力を制御できるようになった。しかし、完全に制御できるわけではなく、雷の力が暴走しそうになる度に、アルベルトは冷静にその力を収束させることを繰り返した。


アランはアルベルトの試行錯誤を静かに見守りながらも、心の中で思うことがあった。アルベルトが手に入れたその力が、どれほど危険で強力なものか、彼自身がどこまでその力を制御できるのか、アランには分からなかった。ただ、アルベルトがこの力をどう使うのか、それを見守ることが今はできることだと思った。


「アルベルトさん、これからどうするつもりですか?」アランがふと尋ねた。


アルベルトは雷の力を最後に収束させると、静かに答えた。「これからも進み続けるさ。力を使って、人を助けていく。それが俺の目的だから。」


その言葉を聞いたアランは、アルベルトを見つめながら少しだけ微笑んだ。彼はその決意に共鳴していた。そして、二人は再び火を囲みながら、静かな夜の中でそれぞれの思いを胸に眠りについた。


その夜、アルベルトは再び夢の中に引き寄せられた。蛇の声が響く中で、彼は新たな力を手に入れることを感じながら、次なる試練に備えるのだった。

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