第12話 不穏な予感
洞窟を通り、出ようとした時。
「あれ、もしかして村民の方々では?」
「そうですね。ほとんどが集まっているようです。父……村長の姿は見えませんが」
嵐から逃れる為に洞窟ってことか?
村の家屋が実際どれくらい耐久性があるのかは知らないが、もしそれほど高くないというのなら、村長が逃げるよう指示したというのもありえるだろう。
そして、指示を出した村長は村の様子を見ている……
「あぁ! ナギちゃん……!」
どうやら村民達もこちらに気がついたらしい。一人の老婆がこちらへと駆け寄ってきた。
しかしその慌て様は、俺達から見ても異常なモノ。俺よりも家屋や嵐の影響について詳しいであろうナギさんも戸惑った様子を見せている。
「落ち着いてください。一体どうしたのですか?」
「大変だ、大変なんだ! 嵐が来たと思ったら、急に化け物が襲ってきて……!」
化け物? モンスターか何かか? それとも嵐のことを化け物と称している……
そう思ったが、周りも確かに不安そうな様子を見せていた。
老婆が突拍子の無いことを言っても誰も止めない。
元とはいえ、現状誰よりも頼れる村長代理。そんなナギさんには、今後の為にも正確な情報を伝える必要がある。
だが、誰も嘘だと言わない。この状況で、民度が高いであろうアーシュ村の村民がだ。
ナギさんへと視線を向けると、自然と目を合い頷かれる。
……嫌な予感がするな。
「その化け物の正体は……分かりませんよね。村長はどちらに?」
「村長が今、一人で戦ってるんだよ! なぁ、私達が悪かった。私から村長に言って、ナギちゃんのこと信じてもらえるよう頼んでみる! だから村長を助けておくれ……!」
それから老婆は俺にも縋りついてくる。
「おぬし、勇者なんだろう⁉︎ きっととんでもなく強いんだろう⁉︎ 頼む! 村長を助けてくれ!」
……ただのモンスターでここまでなるだろうか。
「ご安心ください。勇者として、村長のことは必ずお助けします」
「私も同様です。ここで見捨てるなんてことはしません」
「あぁ……! そうか! なら二人とも、頼んだぞ!」
俺達は背中を押されるように村民達を掻き分け洞窟を出ようとする。
だが……止められた。
腕を掴まれそちらを向く。
彼は若い男で、きっとこの村では頼りにされている存在なのだろうと分かった。
そんな彼は、とても苦しそうな、苦虫を噛み締めるようにしながら呟く。
「……やめておけ」
止められた? 村長を助けてほしいというのが、村の総意ではないのか?
「村長はもう助からない。あの人は特別な力を持っているが、あの化け物には勝てない」
「その口振りだと、あなたはそれに詳しいようですね。どちらにせよ情報は必要ですし、お話聞かせていただいても?」
また黙り込む。そんな彼の代わりに、周囲から小さな声が飛んできた。
「神様だよ、アレ」
神って、この村の神といえば……
「そうだ……オトノ様か、オトノ様に限りなく近い何か。間違いない」
そんな、老婆が言っていたことよりも謎に満ちたセリフ。
「それはまるで、ナギさんを襲っているらしい神様のようですね」
「ゆ、勇者さん、そのことは……!」
「そのことはよく知らないが、おそらく同じモノだろう。それほど、アレの力は異常だった。まあ、見れば分かる。俺も村長が戦ってるのを見て理解した。そもそも雷なんて、神じゃないと操れない」
……確かに。
いや、感心している場合じゃない。雷だって? そんなの勇者の俺ですらできない芸当。
雷は神からの怒りだとか、そういう逸話もある。
この世界の神に、日本での逸話が適用されるのなら……これほど厄介な相手も居ない。俺のような、立場だけの勇者では太刀打ちなんて無茶も良いところ。
「だから、行かないほうがいい」
「……」
それでも、行かないという選択肢は取れない。
「すみません、忠告は感謝します。きっと俺は後悔することでしょう。しかし、村長を一人犠牲になんて……勇者として見過ごすことはできません」
「……私も、私は村を守りたい。それに、勇者さんが行って、私だけが安全な場所で待っているだなんてことはできません」
「そうか……なら、覚悟していけよ」
覚悟。それはつまり……
「無様に倒されても俺達は助けられない。くれぐれも、命を大事に、な」
「肝に銘じます」
俺の腕を離す青年。
俺達はそのまま村へと向かった。
……言った通り、後悔した。真っ当に、魔王と戦うような強い勇者として召喚されなかったこと。それをここまで後悔するとは思わなかった。
勇者になった俺の仕事は性的搾取されること 〜錬金術師はオカズが欲しい〜 夜葉 @yoruha-1
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