第5話 性格変わりすぎでは!?(性的注意)

 オカズになる。といっても、俺はどうすれば良いのだろうか。


 この世界だけじゃない、日本に居た時から彼女なんて居なかったし、そんな、性的な体験をしたことがない。


 そもそも普通にするのではなく、あくまでこれは、ナギさんの自慰行為だ。俺が何か考えるだけ無駄なのか?


「ナギさん、俺はこれからどうすれば良いのでしょうか」

「そうですね……ひとまず、脱いでいただけますか?」


 脱ぐ……まあそうか。とりあえず脱がないことには始まらないよな。


「……上だけで良いですか?」


 わー凄い嫌そう。


 確かになんでもする覚悟はある。これも仕事だ。とはいえ、どうしても感情はついてくるわけで……


「は、恥ずかしいので、慣れない内は、上だけで……」

「照れてる……!?」

「照れますが⁉」


 どういう反応だよ! ジロジロ見てないで、自分の仕事に集中してほしい……!


 とりあえず上だけ脱いで、身体を隠すようにそっぽ向く。


「ど、どうです、か?」


 今気づいたが、前提の話をしていなかった。


 ナギさんは、俺をオカズにして性的興奮を覚えるのだろうか。


 チラりと、そちらを確認する。


 ……俺の身体、主に胸板を見て、とても息を荒くしていた。この人、もしかして生粋の男好きか? 俺でここまで興奮するってことは、男なら誰でも良いのだろうか。


「あの、触って良いですか……!?」

「まあ、どうぞ」


 意を決して向き直ると、ナギさんは恐る恐るといった様子で俺の胸に手を添えた。


「硬い……」

「まあ、復興作業とかで鍛えられましたから。それで、これから一体どうすれば? どういう条件で調合を行えるようになるのか、分かりますか?」

「多分、性的興奮を覚えながら調合すれば良いのかと……ただ、まだこれでは足りない気がします」


 そうだろうか。俺が見る限りではかなり興奮しているように思えるが。


「もう少し、多分寸前までやらないといけないんです」

「寸前と言われましても」

「とりあえずまだまだ足りませんので、勇者さんからも私に触れてください」


 お、俺が、ナギさんに触れる……!?


「い、いえ、それはさすがに、一線を越えていませんか?」

「構いません!」

「構います」

「とにかくお願いします。私、勇者さんに触れられないと興奮できないようになっているんです」


 どういう説明だよ。


 なんだか騙されているような、何か変な気がしてならないが、それでも今はナギさんの言うことを聞く以外にできることはない。


「……じゃあ、失礼します」


 俺はゆっくりと、割れ物を扱うように頭を撫でる。


「んっ……」


 こんなんで良いだろうか。いや多分ダメなんだろうが、俺ではこれくらいが限界だ。


「もっと……」

「はい?」


 撫で続けていると、次第にナギさんの目がトロンとしてきて……先程までチビチビと触ってきていたのが思い切り抱き着いてきた。


「もっと触ってください!」

「も、もっとと言われましても……!」


 顔を擦り付け、胸にキスをしてくるナギさん。今日出会ったばっかりの男によくここまでできるな。


 なにやら慣れている……のかは知らないが、知識がありそうなナギさんとは違い、俺には性的な知識がトンとない。どうすれば性的な触り方をできる? そもそも性的な行為とはなんなんだ……?


「ん~!」


 ん? 急におかしな動作をし始めた。いや初めからおかしかったけど……背伸び、をしている。何度も背伸びをしているが、届かない場所でもあったのか?


 俺は少ししゃがむと、ナギさんはパーッと明るい笑顔を見せ……耳を加えてきた。


「ひゃんっ!?」


 思わず変な声を漏らしてしまい、慌てて腕で口を塞ぐ。


「えへへ……勇者さん、性感帯多いですもんねぇ~」

「ちょっと人より敏感なだけです! ……というかなんで知ってるんですか!」


 マズい、なんだかマズい状況になっている気がする。このままじゃ調合どころではない。


「ん~、えーい」


 押し倒された……!


 も、もう十分じゃないか!? 十分興奮できているし、そろそろ調合を始めた方が良い……!


「ナギさん、そろそろ調合を始めましょう」

「え~? もうちょっとイチャイチャしていましょうよ~」

「ダメです。我々の目的を忘れないでください。村を守る為、一刻も早く素材を集めなくては」

「そんなこと言わないで~。そうだ、良いこと思いついちゃいました」

「良いこと?」

「キス、しちゃいましょう?」


 それはマズい!


 やっぱりダメだ。これも他の人達からすれば普通のことなのかもしれないが、少なくとも俺は恋人でもない相手とキスなんてできない……!


 俺は無理矢理ナギさんを引き剝がそうとする。だが、そうやって触れた身体があまりにも柔らかく華奢で、壊れてしまいそうで上手く力を込められない。


 こういう時、男は力で優位になれるんじゃないのか!? 優位どころか力のちの字も出せないぞ!


「ほら、勇者さんのここも、硬くなってますよ?」

「ッッ~!? さ、触らないで……!」

「あっ、可愛い……勇者さんも、私と同じ気持ちなんじゃないですか~。もうお互い、何もしないなんて耐えられないでしょう? いっそ、最後までしちゃいましょうよ~」


 若者の乱れが深刻過ぎる! なんで会ったばかりの男とそこまでできるんだ……!


「わ、分かりました! やりましょう! でも条件があります!」

「条件?」

「調合が終わったら、です! 調合が終わったら何でも言うこと聞いて差し上げます! なので今は、調合をしてください!」

「ん~、分かりました。終わったら、ちゃんとシてくださいね?」


 ナギさんはようやく俺から離れ、錬金釜へと向かい、素材を放り込む。


 これは賭けだ。俺、つまりオカズは調合において素材でしかないのだ。であれば、調合が終われば性的興奮が一気に冷めるはず。男で言うところの、賢者タイムになってくれるかもしれない。


 ……女性に賢者タイムがあるのか知らないけど……


「ねぇ、勇者さん。こっち、見てくださいよ」

「見ろって……ッッ!?」

 俺は慌てて顔をそらす。

「そっち向いちゃダメですよ~」

「ど、どこ触りながらやってるんですか!」

「だって、シながらじゃないと調合できないんですもん。良いから、私が頑張って調合してるところ、勇者さんも見てくださいっ」


 ……確かに、絵面はどうあれ、ナギさんは頑張っているんだ。なんだか性格が変わっているような気がするが、きっとそれも呪いのせい。


 俺には性格を変えてまで頑張るナギさんを、見届ける義務がある。


「……勇者さん、呼吸荒いですよ? 勇者さんも、シたいんじゃないんですか?」

「い、いえ。俺はちゃんとナギさんの勇姿を見届けます。一人でそういうことに興じるのは、頑張ってくれているナギさんに失礼でしょう」

「……そういうところ、好きですよ」


 そして、釜が光り出した。


「ッッ~ ‼」


 同時にナギさんも変な声を出して身体を跳ねさせる。


「い、イッた……?」


 ……しばらくして釜の光が収まった。


 俺は恐る恐るそちらへと近づき、釜の中を覗く。


 これは、爆弾だろうか。


「勇者、さん……」

「な、ナギさん! 大丈夫ですか!?」


 地面に両膝を付け、こちらに伸ばされた両手を掴む。


「……責任、取ってくださいね……?」


 ……膝に頭を乗せて、ナギさんは眠りについた。


「お疲れ様です、ナギさん。頑張りましたね」


 眠りにつき、先程までのやべぇ奴感はスッと無くなった。


 異世界に来て、日本人の俺では理解できない状況と何度も遭遇した。そして、思う。


「……もうこれわっかんないですね」


 異世界マジこえぇ。それが半年以上この世界に住んで感じた俺の感想だ。

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