第16話 オフ、女の子二人

 昼前にスカーレット家への取材を終えたアルマは暇を持て余してしまった。

 今日一日は休業しているため、それを撤回して仕事を始めるわけにもいかない。

 

 「アルマ殿、よければこの後一緒に買い物にでも行かないか?」


 シャロンは今日の予定を埋め合わせるように尋ねた。

 彼女はアルマの助手であるため、アルマの休日は彼女の休日でもあり、同様に暇を持て余していた。


 「いいですよ。行きましょうか」

 「ではまた、支度が整ったらアルマ殿の家で待ち合わせしよう」


 アルマとシャロンはアルマの家で落ち合うことを約束すると一度解散した。

 家に戻って支度をしていると、ものの十数分でシャロンが訪ねてきた。


 「待たせたかな、アルマ殿」

 「ううん。こっちは今支度を終えたところだけど……」


 アルマはシャロンの支度の早さに驚愕させられた。

 ほとんど時間が経っていないのにも関わらず、シャロンの格好はさっきとはまるで別物になっていたのである。

 いつもの大剣こそ背負っていないが細身の剣を腰脇に携えている。


 「じゃあ、行きましょう」


 アルマは家を出てシャロンと合流すると今度は違う行き先へと向かっていった。

 マリー以外の人物との外出経験に乏しいアルマは久々の体験に密かに心を躍らせた。


 「何を買いに行くんですか?」

 「火傷治しを調達したくてな。うちの家族はああいう仕事してるからたまに火傷をすることがあって」

 

 シャロンは自分が購入しようとしているものをアルマに伝えた。

 シャロンの家族の職場である鍛冶場はその性質上火傷をする頻度が高い。

 そのため火傷に対する治療道具と薬が手元に欠かせないのである。


 「マリー殿に頼めばよかったかな」

 「うちのマスターは薬を作る錬金術師じゃないですよ」


 アルマはマリーのことを掘り下げた。

 市販の薬を作るのは医者ないし医学の知識を持った錬金術師の仕事である。

 対するマリーは医学の知識を持つ錬金術師ではあるものの市販の薬を作ることに関しては専門外であった。


 「マスターは自分の研究で忙しいですから、自分からそんなことはしないと思います」

 「ではマリー殿はどんな研究をしているのだ?」


 シャロンに尋ねられたアルマは返答に困ってしまった。

 マリーがかつて何の研究をしていたのかは知っているものの、現在については知らないためである。

 仕方がないので過去の研究について触れつつ現在のことをぼかすことにした。


 「昔は人の身体を再生させる方法の研究をしてたみたいですけど、今はどうなんでしょうね」

 「人の身体の再生か……というと、焦げた皮膚を元に戻すとか?」

 「それっぽいことですよ」

 「もしうまくいけば素晴らしい技術になるのだろうな」


 アルマの語るマリーの研究にシャロンは感心した。

 欠落の錬金術師と呼ばれるマリーが人のためになる研究をしていたとは思いもよらなかったのである。


 そんなこんなで話をしているうちにアルマとシャロンは町の薬屋へとやってきた。

 シャロンは慣れた足取りで店の中へと入っていく。


 「いらっしゃいませ。いやぁ、シャロンちゃんじゃないですか。いつもありがとうございます」

 「主人、早速だがいつものを頼めるか」

 「はいはい。いつもご苦労様」


 薬屋の店主は棚の上を漁るとシャロンが目当てとしているものを取り出した。

 わずか数秒後、色が付いた瓶があらかじめ用意されていたかのようにシャロンに渡される。


 「お代はいつも通りでいいな?」

 「もちろん。ありがとうございます」


 シャロンと薬屋の店主は短くも気の置けないやりとりを交わす。

 どうやらシャロンはここにはずいぶんと通いなれているようであった。


 「ところで今日は珍しい人と一緒にいるようだけど?」

 「国家公認魔術師のアルマ殿だ。私は先日から彼女の助手を務めているのだ」


 シャロンは店主にアルマのことを紹介した。

 店主はアルマのことを知ってはいたが国家公認魔術師になったのは初耳であった。


 「こんにちはアルマちゃん。国家公認魔術師になったんだね」

 「あっ、はい。おかげさまで」


 アルマは店主と社交辞令を交わす。

 自覚こそなかったが彼女は町の中では有名人であった。


 「アルマちゃんは何か必要な薬はあるかな?」

 「大丈夫です。今のところ不備はありませんので」

 

 店主の販促とも取れる誘いにアルマはやんわりと断りをかけた。

 事実、アルマは病気とは無縁な健康体である。

 マリーもこれといって薬が必要な状態でもないため、今備えられている市販薬だけで十分事足りていたのである。


 「そろそろ失礼するぞ」

 「ありがとうございましたー。薬が必要になったらぜひご贔屓に」


 シャロンが切り上げるとアルマとシャロンは薬屋を後にした。

 帰りがけにアルマは自分が有名人であることを薄々と自覚したのであった。

 

 「もしかしてボクって結構いろんな人に知られてる?」

 「まあ私でも知っていたぐらいだからな。ところでまだ寄っていきたい場所があるのだがいいか?」

 「いいですよ」


 こうしてシャロンはアルマを連れてさらに町の中を歩いていくのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る