雨宮新内閣発足

『ああ、雨宮くんか』


「ええ。お世話になっています。幹事長」


 雨宮が返事をすると、電話の向こうで幹事長の笑い声が聞こえた。小柄で常に高圧的な口調の幹事長、原髙衞は党内きっての実力者で、影のフィクサーとも呼ばれる存在だ。


『明日はいよいよ、君の内閣発足だな。やる気満々か?』


「もちろんです。責任重大ですから、緊張しております」


『緊張なんかしてる場合じゃないぞ。支持率が落ちると、あっという間に足を引っ張られるのがこの世界だ。特に君は若いから、ベテラン連中のやっかみも相当なものだろう』


 原の言葉に雨宮は内心ため息をついた。政権運営の難しさは理解しているが、それに加えて自分の年齢が逆風となるのも事実だ。


『それにだ、君の政策提案は派手だが財源の説明が曖昧だと批判も多い。財務省からも根回ししておかないと、連中が予算編成でしっぺ返しをしてくるぞ』


「ええ、承知しています。財源問題については、今夜の会議で具体的な案を練る予定です」


『そうか。だが、油断するなよ。政治は戦略だ。気を抜くと、次の党大会で君を引きずり下ろす動きが始まるかもしれないぞ』


 原の忠告に雨宮は気を引き締めた。確かに、彼の政策は党内の保守派からも進歩派からも賛否が分かれている。特に「経済改革推進法案」の成立を目指す彼の計画には、財界からの圧力も強まっているのが現状だ。


『ああ、そうだ。明日の閣議に向けて、経済産業大臣候補の森川平太についての意見は聞いているか?』


「はい、彼は経済政策に精通していると聞いています。税制政策に積極的ですし、国際会議でも評価されています」


『ふん、そうか。あまり理想論だけを追い求めて、現実の支持率を落とさないようにしてもらいたいものだ』


 原の皮肉混じりの言葉に、雨宮は苦笑いを浮かべた。現実的な支持率確保と理想的な政策推進のバランスをどう取るか――それが彼の内閣運営の大きなテーマとなるのは間違いない。


『それと、法務大臣にはタカ派の川畑耕太を推しておいた方が良いだろう』


「ええ、私もその方向で進めるつもりです」


『では、うまくやるんだぞ。国民はもちろん、我々も君を見ているからな』


 電話が切れ、雨宮は一息ついた。政権発足前夜のこの緊張感が、彼の背中に重くのしかかってくる。しかし、その反面、燃えるような闘志も同時に湧き上がっていた。

 明日の閣僚会議に備え、雨宮は今夜も遅くまで官邸に残って閣僚名簿と政策資料とにらめっこすることに決めた。

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