第2次政権で転生させられ、支持率が戦闘力になりました
倉津野陸斗
内閣総理大臣の仕事
雨宮隆一の妄想
雨宮隆一は、長年、日本の内閣総理大臣を務めている。
しかし、彼にはある特異な特性があった。それは、遅刻癖と妄想癖である。
遅刻癖は、なんとかしてほしいものだが、妄想癖は、職務の厳しさから発症してしまった。職務に支障をきたさなければ良いが、と周りの閣僚からは心配されている。
最近は、遅刻癖は解消してきているのだが……
彼は、国会議事堂での厳しい政治的な議論の中でも、異世界での冒険を夢見ていた。今日もまた、彼はその妄想に浸っていた。彼の頭の中では、壮大な城壁と不思議な生き物が行き交う異世界が広がっている。
「雨宮総理、また遅刻ですか?」と、森川平太経済産業大臣が口を開いた。彼は一見穏やかながら、雨宮が遅れるたびにイライラしていることを隠せない。
森川は、経済の専門家であり、常に的確な判断を下す優秀な大臣だ。
しかし、雨宮はその偉大な手腕を他の大臣に任せ、自分の考えに没頭していた。
「いや、ちょっと宇宙の戦士になりたくて、勇者の装備を調べていたもので」と、雨宮は軽口を叩きながら座った。
その言葉に、閣僚たちは一瞬の沈黙の後、爆笑した。
高尾陽子外務大臣は、明るい笑顔を見せながら、「今日の会議は重要な議題が多いんですから、早く始めましょうよ」と促した。
高尾は、雇用政策や移民問題、外交について常に真剣に取り組む、非常に信頼できる大臣であった。
「はいはい、わかったよ。今日の議題は何だっけ?」と雨宮が答えると、川畑耕太法務大臣が資料を手に立ち上がった。
「まずは、法改正についてですが、今回の経済成長に伴って新たな法律が必要です。特に、税制改革が焦点になります」
川畑の言葉に、雨宮はふと考え込んだ。彼は経済や法律の専門家ではないため、いつも彼らに任せているのだ。
「それから、次は片岡議長からの報告があります」
高尾が続けた。片岡洋平衆議院議長は、いつも真剣で厳格な印象を与える。彼は国会の秩序を保つために日々奮闘している。
「おい、雨宮くん。聞いてるか?」と片岡が少し苛立った声で言った。「あなたが遅刻したせいで、議事録も滞っている。もう少し真剣にやってくれ」
「すみません、すぐに集中します!」と雨宮が言うと、他の閣僚たちがまた笑い出した。
その後、閣議は進行し、各大臣が自分の担当する分野について報告を行った。森川は、経済成長のデータを示し、失業率の低下やGDPの上昇を誇らしげに述べた。
「我が国の経済は今、右肩上がりです! これも雨宮総理のリーダーシップのおかげです」
「その通りだ。しかし、私が知っているのは、税金を取られることと、毎年の年末調整が面倒くさいことくらいだな」と雨宮は冗談を交えた。
このような調子で会議は進んだが、雨宮の心の中では、異世界での冒険が彼を待っているのだという妄想が広がっていた。彼はいつも、自分が異世界の王様になり、魔物を倒したり、貴族たちと取引をしたりする姿を思い描いていた。
そんな彼の妄想は、現実の厳しさを忘れさせるほど魅力的だった。
一週間後、予算委員会の議論が始まった。会議室には、与党と野党の議員たちが勢ぞろいし、緊張した空気が漂っていた。野党は与党の政策を批判し、与党はそれに反論するという、いつもの光景が展開される。
「これまでの政策の結果、私たちは経済大国としての地位を確立しました。しかし、今後の見通しはどうか、雨宮総理、あなたはどう思いますか?」と、野党の議員が問いかける。
「まあ、私は政治については詳しいが、経済や法律については森川や川畑に任せておりますから。彼らの方がずっと頭が良い」と、雨宮が言った瞬間、会場は一瞬の静寂に包まれた。
「それでは、あまりにも無責任な発言ではないでしょうか!」
野党が鋭く反発した。雨宮は、これが彼の失言の始まりであることをまだ理解していなかった。
その後の質疑応答で、雨宮は次々と野党の質問に答えていくが、彼の発言はますます混乱を招く結果となった。
「私たちは、経済政策については素晴らしい成果を上げてきたが、異世界のような国際的な競争が必要だと思う。そう、税制を見直すべきだ!」
また脳内で考えていたことをそのまま言ってしまった。
その瞬間、場は静まり返った。雨宮は、自分の言葉がどれほど奇妙であるかを理解し始めたが、もう手遅れだった。与党の支持者たちは彼を励まそうとしたが、野党の議員たちは笑いをこらえきれなかった。
「異世界? 何を言っているんだ、この総理は!」と、議場からの嘲笑が響く。
そのとき、雨宮の頭の中にふと閃いた。これは彼がずっと夢見ていた異世界の冒険の始まりなのかもしれないと。しかし、彼はその考えをすぐに振り払った。今、彼が目指しているのは、あくまで日本の政治であり、異世界などとは無縁の現実だった。
周囲の喧騒が徐々に遠のいていく中、彼は不安な気持ちを抱えていた。現実は彼を冷たく叩きつける。彼の失言は、野党からの激しい攻撃を引き起こし、辞任を求める声が上がった。「雨宮総理、責任を取れ!」という叫び声が響く。
彼は異世界への期待感とは無縁に、現実の厳しさに圧倒されていた。
この時、彼の心にあったのは、一つの思い。
彼は、今の混乱から逃げ出したいという気持ちを抱えつつ、政治家としての責任を果たす必要があることを自覚していた。異世界での冒険など夢のまた夢であり、彼は自分が果たすべき使命に集中することが求められていると感じていた。
さあ、次はどうなるのか……
彼は混乱の中で、これからの展開に不安を感じつつも、批判に立ち向かう覚悟を決めていた。
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