第2話 最初の「ありがとう」

 町の青空が広がるある日、ゆうたは学校が終わったあと、いつもの道を通って家へ向かっていました。川のせせらぎや遠くで聞こえる鳥のさえずりが心地よく、気分は上々でした。


 途中、町の商店街を通りかかると、小さなケーキ屋の前で人だかりができていました。そこには、ケーキを買おうとしていたおじいさんが転んでしまい、周りの人たちが心配そうに見守っている様子がありました。


 「どうしたんだろう?」


 ゆうたは立ち止まり、その様子をじっと見つめました。おじいさんは杖を使いながら立とうとしていますが、足元がふらついてなかなか上手くいきません。手に持っていたケーキの箱も地面に落ちてしまい、彼の顔には困ったような表情が浮かんでいました。




 「僕にできるかな……」

 ゆうたは少し迷いましたが、勇気を振り絞り、走り出しました。


 「大丈夫ですか?お手伝いします!」


 おじいさんは驚いた顔をしてゆうたを見ましたが、すぐに優しい笑顔になりました。

 「おやまあ、ありがとう。若いのに助かるよ。」


 ゆうたはおじいさんの腕をそっと支えながら、ゆっくりと立ち上がるのを手伝いました。その手は少し震えていましたが、おじいさんの温かさが伝わってくるようでした。


 「ほら、これで大丈夫です。」

 おじいさんが杖をしっかり持つのを見届けたあと、ゆうたは地面に落ちていたケーキの箱を拾い上げ、そっと渡しました。


 「ケーキ、大丈夫かな……?」

 おじいさんは箱の中を確認しました。中のケーキは少し傾いていましたが、形は崩れていませんでした。


 「いやぁ、大丈夫だよ。おかげで助かった。ありがとう、ゆうたくん!」

 おじいさんは嬉しそうに笑いながら、ゆうたの頭をポンポンと軽くたたきました。




 その瞬間、ゆうたの胸の中に、ぽかぽかとした温かい感覚が広がりました。それはまるで、太陽の光が直接心に降り注いできたような、不思議で気持ちのいい感覚でした。


 「これが……『心の通貨』なのかな?」


 ゆうたはつぶやきながら、おじいさんの笑顔をじっと見つめました。「ありがとう」という言葉がこんなにも嬉しく、心に響くものだとは思いもしませんでした。


 「ゆうたくん、これを受け取っておくれ。」

 おじいさんはポケットから小さな木のコインを取り出しました。そのコインには「感謝」と書かれており、手作りの温もりを感じるものでした。


 「これは『心の通貨』だよ。この町では、お金じゃなくてこれを渡すんだ。君の優しさに感謝してね。」


 「ありがとう、でも僕はただ助けただけだよ!」

 ゆうたは少し照れくさそうに笑いましたが、そのコインを大事そうに受け取りました。




 家に帰る途中、ゆうたはそのコインを手のひらの中でくるくると回しながら考えました。おじいさんが見せてくれた笑顔、そして「ありがとう」という言葉。それらが今でも心の中に残り、胸がじんわりと温かいのです。


 「もしかしたら、『心の通貨』ってお金よりもすごいものなのかもしれない……」


 その日から、ゆうたは少しずつ「ありがとう」を集めることに興味を持ち始めました。人々を助けることで感じる温かさが、ゆうたの中に新しい気持ちを芽生えさせたのです。

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