第5話 防衛隊のお仕事

 にっこりと笑ってソフィアは隣にリックに、防衛隊について説明を始める。彼女の横に座り、リックは真剣な表情で話を聞いていた。


「まずは防衛隊について説明しますね……」


 防衛隊、正式名称、王立防衛隊は、王国兵士で構成された部隊で、主な任務はグラント王国の領地、施設を敵国や魔物等の侵略等から守ること。その他にも町の警備等の治安維持、王国が所有する施設の管理、さらには異国への買い付けや農地の耕作なども、緊急で行うことがある。要は王の命令があれば何でもやらされる。第四防衛隊の他に隊は、第一から第百五十まであるが、いくつか消滅している部隊や現在は活動していない部隊がある。また、国王の直轄領以外は各領主が独自に防衛隊を設けており、要請があればそちらの補助も行う。

 日勤と夜勤を繰り返して給料は月に金貨三十枚ほどで三百グラントギル、これは王都の平均の二倍ほどで、月収としては割と良い方である。その他には王立施設であれば、割引で利用できたりと特典もついている。なお、原則副業は禁止、冒険者ギルドなどで個人的に、依頼を受けた場合は隊長に報告が必要になる。

 ソフィアの説明を聞いたリックは何かを思い出したようにハッという顔とする。


「あっそうだ! 俺とソフィアが相棒ってどういうこと?」

「はい。第四防衛隊はですね。隊長一人と隊員四人なんです。任務は基本的に二人のコンビであたります。お互いを監視しての不正防止や、補助行動を円滑にして安全を確保するためです。それに一人だと帰還しない人が多くて…… だいたいは後で死体となってみつかるんですけどね」


 彼らが所属する第四防衛隊は、死亡率や不正防止の観点から、コンビでの行動が基本となるようだ。リックはソフィアの説明に納得したようにうなずき彼女の前に右手をさしだす。


「そうか! じゃあよろしく。ソフィア!」

「はっはい! 私こそ、よろしくお願いいたします! リックとずっと二人…… きゃ!」


 ソフィアはしっかりと握手をすると、彼女は頬を赤くしてうつむいた。リックは彼女の行動に首をかしげた。


「どうしたの?」

「なっなんでもありません!」


 恥ずかしそうに顔を真っ赤にしてソフィアは首を横に振り、わざとらしく咳ばらいをして話を続ける。


「こっコホン。じゃあ次に王都説明ですね」

「王都グラディアはほぼ丸い形をしていて……」


 ソフィアは王都グラディアについてリックに説明をする。王都グラディアは丸い円形をして、格子状に九つに区切られている。真ん中が王様の居城があったり王族や貴族が住んでいる地域でそこか第一区画。それを取り囲むように、北西から二区第三、第四、第五、第六、第七、第八、第九区画と時計回りに続く八つの区域がある。それぞれの区画を三~四部隊で担当している。ちなみにリック達の詰め所があるのは第九区画でグラディアの西側にあたる。

 また、王都の真ん中の第一区画は騎士団の担当で防衛隊の管轄ではない。他にもお城の内部と王族、貴族や騎士団関係の施設はすべて騎士団が防衛を担っており防衛隊の管轄ではない。ただし、騎士団から命令があれば防衛をすることもあるらしい。

 説明が終わりソフィアは、リックを見てニコニコと満足げに笑っている。


「なるほど…… 防衛隊にも隊によって管轄があるのかじゃあ、俺たちの管轄ってどこになるの?」


 リックの問いかけに、ソフィアは少しだけ気まずそうにして視線を逸らす。リックはソフィアの説明を聞いて、自分の管轄だけを担当すればいいので、防衛隊では楽ができると軽く考えていた。


「それは…… 全部です」

「はぁ?」


 目をそらしたまま小さな声でソフィアが答える。答えを聞いたリックは、真顔で顔をソフィアに近づける。彼は全部というソフィアの回答に自分がからかわれたと思ったようだ。


「ふぇぇぇぇん、怒らないでください。顔が怖いです。リック…… 第四防衛隊は人数の少ない遊撃部隊なんですね。だから、人手足りない地域があれば王都含む王国全域を担当するんです…… 怖いよう」


 泣きそうな声に必死に説明するソフィア、彼女の態度にリックは慌てて近づけていた顔をはなす。


「べっ別にソフィアに怒ってないよ。ちょっと全部って聞いて驚いただけだよ。ごめんね」

「ほんとですか? よかったです」


 リックが笑顔になると、泣きそうな顔だったソフィアが、安堵の表情をした。


「ほっ…… よかったです!」


 胸を押さえて一息つくソフィアは笑顔になる。リックは頭をかくしぐさをして申し訳なさそうにしている。ただ…… 王都全域担当と聞いて、給料や待遇が良いと期待したリックが、第四防衛隊に入隊したことを、少し後悔したのも事実である。


「ただいまー! あー疲れた!」


 詰め所の扉が勢いよく開き、誰かが入って来た。声の方に振り向いたリック、詰め所に入ってきたのは、二メートルを超える身長のスレンダーな茶色の髪をした女性だった。鼻筋がすっと伸びた凛々しい顔に、鋭い目にはダークブランの瞳が輝いている。入って来た女性に、ソフィアが親しげに声をかける。


「おかえりなさーい! あれれ? メリッサさん一人ですか、イーノフさんは?」

「ソフィア…… イーノフなら今日は辺境の村の警備に行ってもらっただろ。もう忘れたの?」

「そうでした…… すみません」

「もう…… ソフィアったら相変わらず抜けてるねぇ。それでこの人は? 新人さんかい?」


 メリッサと呼ばれた女性がリックに気付き視線を向ける。視線を向けられたリック、メリッサの鋭い眼光が確認するように、彼のつま先から頭を素早く移動していく。リックは眼光鋭い彼女に、見られて鳥肌が立つ、本気で睨まれた腰を抜かしそうになりそうだと恐怖を覚えた。


「はい。リックは今日入隊した新人さんですよー」

「今日から第四防衛隊に入りました。リック・ナイトウォーカーです」

「あたしはメリッサ・ファニンだよ。よろしくね。そっか新人さんか……」

「はっはい。よろしくお願いいたします」


 メリッサがリックに手を出されて二人は握手をする。メリッサは目つきが鋭い颯爽して感じで、のほほんと柔らかい雰囲気のソフィアとは全然違っていた。身震いするリックを見たメリッサの表情が少し暗くなり重たい感じで口を開く。


「あんたもすぐ死ぬんじゃないよ。ここ三年くらい新人はソフィア以外…… 生き残ってないからさ……」

「えっ!? はっ?」


 いきなり死ぬなと言われたリックは激しく動揺し変な声をだす。しかし、彼は思い出した、ついさっきもこの制服着てた人が三日目で死んだとか言われたことを…… 先輩二人からの情報でリックはもうお腹いっぱいだ。彼は一時間くらい前に入隊したばかりだが、入隊したことを何度も後悔していた……


「(はぁ…… あー! 俺はなんであの時、巨乳を見てサインしたんだ! バカ!)」


 うつむいて激しく後悔し首を横に振るリックだった。握手を終えたメリッサは、リックの行動を見て、いたずらに笑っていた。

 メリッサの言動にカルロスが、彼女の後ろから声をあげた。


「こら! メリッサ! 新人を怖がらせないでくれよ。それに、大丈夫だよ。ソフィアとリックは僕が見つけて連れてきたんだから、他の連中は上から押しつけてられた人達だったからね……」

「そういやそうだね。でも、気をつけなよ。ここじゃ気を抜いたらあっという間に死ぬからね」

「はっはい……」


 真顔でメリッサはリックを見つめる、彼は力なく返事をするのだった。

 バンという大きな音がして、また詰め所の扉が急に開いた。詰め所にいた全員が一斉に入り口の方をみる。入り口には慌てた様子の一人の男性兵士が立っていた。彼も第四防衛の隊員なのだろうかと、リックはまじまじと彼を見つめている。


「なんだいあんた? 帰ってくる詰め所を間違えたのかい?」


 兵士はメリッサを見て口元を緩める…… どうやら彼は第四防衛隊の隊員ではないようだ。


「相変わらず冷たいなメリッサは…… でも、ちょっと急用なんでね。失礼するよ」


 詰め所に一歩はいった兵士は隊長に敬礼をしてから話しを始める。


「ギルドの冒険者が森のサーベルウルフを連れて帰ってきやがった。もう南門のすぐ近くまで来てる。申し訳ないが俺たちは持ち場を離れられないから、第四防衛隊で対応してもらえないか?」

「はぁ…… またか…… メリッサ! リックを連れてちょっと行ってきてくれるかい?」


 サーベルウルフとは長い牙を持つ狼と似た肉食の魔物で、森や平原などに住み群れの結束が強く、集団で行動し人間を襲う。カルロスは兵士の報告を聞くとメリッサにリックを連れて対応するように指示を送った。リックは驚いた顔をし、メリッサは面倒そうに顔を歪める。

 

「えー? あたしは今帰ったばかりだよ。だいたいソフィアの相棒だろ彼は?」

「そういわずに頼むよ。まずは経験豊富なメリッサが彼にお手本を見せてくれよ。それにソフィアにはちょっと書類を……」

「はぁ!? あんたはまた自分の書類をソフィアにやらせてるのかい!」

「だってソフィアに任せると早いんだもん…… 頼むよ! メリッサ! 後でご飯をおごるから!」


 メリッサは不機嫌そうに、カルロスを睨み、次にリックの方に顔を向けた。リックは事態をよく把握できないが、とりあえず一緒に行くメリッサに立ち上がって頭を下げる。


「よっよろしくお願いします! メリッサさん」

「はぁ…… わかったよ…… 今回だけだよ。あと…… 対応はあんたがやるんだ。私はサポートするだけだからね。わかったね?」

「えっ!? はっはい」


 返事をしながらリックに近づき目の前で立ち止まると彼の胸を軽く小突くメリッサだった。リックは返事をした、にやりと笑った彼女は振り向くと詰め所の扉に向かって行く。


「ほらついてきな!」


 扉の前で振り向いた手招きしてリックを呼ぶメリッサ。彼は小走りでメリッサについていく。リックを見てにやりと笑うとメリッサは彼を待たずに外へと出ていく。リックの第四防衛隊としてに初任務が始まるのだった。

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