第4話 受け継ぎたくない者
王都の整えられた石畳みの道を、ソフィアとカルロスに先導されリックは進む。にぎやかな通りを歩くこと十数分、三人は騎士団の施設から王都グラティアの西門の近くにやってきた。近くに王都を囲む頑強な城壁があり、周囲には石造りの建物が並んでいる。
なかでも一番大きく目立つ派手な五階建ての建物がある。石造りのどっしりとした建物で綺麗な装飾が施された柱や、勇ましい騎士の像が入り口にたってグラント王国の旗がなびいている。後ろを歩くリックの視線に、カルロス達が扉の入り口へ差し掛かるのが見えた。
「(そうか。ここが防衛隊のさっき言ってた詰め所ってやつかな?へぇ…… 防衛隊ってさすがに城や街を守るだけあって大きいな…… ってあれ?)」
カルロスは建物を素通りしていく。リックは慌てた様子で建物を指さし口を開く。
「あっあの! ここが詰め所ってやつじゃないんですか?」
「お前さん…… 何を行ってるんだ? ここは騎士団や勇者様が使うところだよ。我々はこっち!」
首をかしげたカルロスは通りの先を指さした。彼の指の先には建物の隣に平屋の小屋が並んでいた。立派な建物の前で、呆然とするリック、カルロスは並んだ小屋と向かう。建物から数えて三件目の小屋の、木製の扉には数字の四と、ライオンの前で剣が二つ交差する王国の紋章が刻まれている。カルロスはポケットからカギを取り出して、その四の数字が書かれた小屋の扉を開けた。どうやらここが第四防衛隊の詰め所のようだ。
「さぁ。お前さんこっちにおいで」
カルロスが詰め所の扉を、右手で押さえ、左手で手招きしてリックを呼ぶ。
「行きましょうリック様」
「えっ!? あぁ……」
ソフィアは立ち止まっていたリックに手を引いて詰め所へと連れて行くのだった。
扉を押さえるカルロスの横をソフィアに連れられ、詰め所の中へとリックは足を踏みいれる。
「ちょっと狭いけど我慢してくれよ。ようこそ、リック! 王立第四防衛隊へ! 今日からここが君の職場だよ!」
カルロスが詰め所に入ったリックに声をかける。詰め所には入り口から見て一番奥に、二段ベッドが二つと、その手前に大きな木の箱が二つ、箱の手前に机が隊員用の机が置かれていた。机は四つが向かい合わせに置かれ、一メートルほと幅を開けて四つの机を見える位置に、机が一つ置かれていた。
「あと、この建物の右隣は第十三防衛隊、左隣は第六防衛隊が使ってるんだ。裏通りには鍛冶屋や薬屋があるから後で確認しといてね」
「はっ、はぁ……」
この辺一帯の同じような形をした平屋の建物は、リック達と同じ防衛隊の詰め所で、防衛隊が利用する施設も近所にまとまってあるようだ。
「じゃあ僕はちょっと仕事があるからあとの細かいのことはソフィアから聞いてくれるかな。あっ! そうそう! ソフィアはお前さんの相棒だからな」
矢継ぎ早にリックに声をかけるカルロス、彼は手でソフィアを指している。ソフィアが相棒と言われたリックは驚いた振り返る。振り向いたリックにソフィアはニッコリと微笑んだ。可愛らしい彼女の笑顔にリックは恥ずかしく頬を赤くする。
「あっあと僕のことはこれからは隊長って呼ぶようにね。けじめだから! それじゃ。ソフィア。後はお願いね」
「はい」
「えっ!? あっ!」
そういうとカルロスは一番奥のみんなを見える位置に置いてある机へ向かっていく。どうやらそこが彼の席で、席につくとカルロスは書類に何かを必死に書き込んでいる。
「じゃあリック様こちらにどうぞ」
「えっ? はっはい」
カルロスに後を託されたソフィアは、一番手前にある並んだ机の右手側の机から椅子を持って、向かいの席に置きリックにそこに座るように促す。どうやら椅子を置いた場所がソフィアの机のようだ。ソフィアの机には、たくさんの書類がつまれて正直、整理されているとは言えない状態だった。ソフィアの席の向かいにリックが来るとソフィアが口を開く。
「向かいがリック様の席です。自由に使ってください」
「わかりました。ソフィアさん」
椅子を持ってきた、何も置いてないソフィアの向かいの机が、リックの席となる。返事をしてリックが椅子に座ると、ソフィアは少し驚いた様子で彼を見た。
「ソフィアさん…… 私はソフィアで良いですよ。リック様。それにもっと楽にしゃべってくれていいですよー」
「えっ?! だったら、俺もリックでいいですよ。俺の方が後輩になるんだし…… お願いね。ソッソフィア」
「わっわかりました。リッ…… リック! きゃあ!」
顔を真っ赤にしてソフィアは、両手を自分の頬に当てて舌を向く。
「私ったら初めて男の人の名前を呼び捨てに…… きゃあ! はぁはぁ……」
「あっ、あの? 大丈夫ですか?!」
「はっはい、大丈夫です。ちょっと待っててくださいね」
ソフィアは顔を真っ赤にしたまま、席を外すとベッドの近くにある箱を、開けて手に大きな袋を抱えて持ってきた。戻って来たソフィアは袋を床に置いて開け中に手をつっこんだ。
「えっとこれが通常任務で着用するライトアーマーと制服です。鎧は他に大規模戦闘用にヘビーアーマーがありますが、身体測定をしてから発注しますから用意できるのは一週間後です」
「はぁ……」
袋からソフィアが出してきたのは、茶色の防衛隊の制服と鉄製の胸と肩の部分と腰回りだけ装甲がついたライトアーマーだった。
「奥のベッドの横の扉が更衣室なので着替えて来てください」
ソフィアに促されたリックは、詰め所の奥の更衣室へ向かい、渡された制服と鎧に着替える。防衛隊は有事がないときは、制服の上にこのライトアーマーをつけて勤務をする。モンスターの大規模襲来とかあったら全身を覆う重装鎧を使用するようだ。
「うん…… でも、ヘビーアーマーは発注なのに、どうして俺の制服とライトアーマーはあるんだ?」
狭い更衣室でリックは自分の制服が用意されているのを不思議に思った。着替え終わった彼は席に戻ってソフィアに尋ねるのだった。
「なんで? 俺の制服とライトアーマーはあるの?」
「いえ。それはリックのではなくて…… リックの前に使用していた人が不要になったので…… 全身を覆うヘビーアーマーは無理ですがリックの体格が前の方と同じくらいなので制服とライトアーマーなら着られるかなと思ってだしました」
小さくうなずきながらソフィアの話を聞くリック、事情はわかったのだが一つだけ気にかかることがあった……
「いらなくなったって? 前の人は防衛隊を辞めちゃったの?」
「えっと…… 確か入隊して三日目で襲撃してきたゴブリンの矢を頭に受けて……」
悲しそうに目を潤ませてソフィアが話をする。リックは前任者について、尋ねたことを激しく後悔するのだった。また、彼はソフィアに対しても黙っているか、嘘でもやめたことにしてほしかったと、理不尽にも思ってしまうのだった。
「そっかぁ。なんかやだなぁ……」
脇をあげたり足を動かしたりして、リックは制服や鎧を隅々まで確認する。彼の行為を見たソフィアは微笑む。
「大丈夫ですよ。頭に矢が直撃だったから鎧に傷はないですし制服も鎧も私が一所懸命洗って血とか肉片とか綺麗に流しましたから」
腕をまくる動作をした、ソフィアは得意げに話している。首をかしげるリックにソフィアは話を続ける。
「それに死体荒らしにあった時の槍の傷とかは丁寧に縫いましたし……」
「ソフィア! もういいよ」
「えっ!? どうしたんですか!?」
「わかった。もうこれ着るから! その人の話題やめようか」
「はい」
リックが話を適当にさえぎりソフィアの隣に座った。素直に話を終わらせたソフィアに、安堵の表情を浮かべるリックだった。
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