第3話 都会の罠
「うわぉっと?!」
角を曲がったリック、角に影に隠れるように人がおり、彼はぶつからないように体勢をひねって立ち止まった。
「痛いです! 離してください。だっ誰か…… 助けて」
緩く甘えた女性の声がする。リックが視線を前に向けると、酔っ払っているのかフラフラと上半身を揺らした男が、銀色の長い髪で赤い瞳の上に眼鏡をかけた、エルフの女性の手首をつかんでいた。男は体格のいい坊主頭で、革の鎧をつけて腰に毛皮の腰巻をし、剣を背中に背負った冒険者のようないでたちの男だった。まずいところに出くわしたなと顔を歪ませるリック、そこへ……
「待ってくれって……」
リックにカルロスが追いついた。リックはこれで女性が救われると安堵した。だが…… カルロスはリックの目の前で行われている光景を見ても動くことはなかった。女性とカルロスを交互に見てリックはカルロスに声をかける。
「おじさ… カルロスさん! あなたは兵士でしょ? 彼女を助けないの?」
「うーん? ここは騎士団の管轄で僕には管轄外だからなぁ…… やめとくよ。もめるし……」
カルロスはめんどくさそうにリックに、答えると手を頭の後ろにあたて振り返った。見て見ぬふりということだろう。
「なっ!? クソ! この国は本当に腐ってやがる」
小さな声でつぶやくリック、すでにいやらしい顔をつきをした男は、女の子の腰に手を回そうとしていた。
「チっ! こうなったらやってやる! 騎士も兵士もくそくらえだ!」
舌打ちをしたリックは、左手で腰にさした、剣の鞘を持ち右手で男を指した。
「おい! おっさん! 女の子が痛がってるだろ! その手を離せよ!」
「なんだ?! ガキが生意気な」
リックに怒鳴りつけられた男は、彼を睨みつけ怒鳴り返してきた。男は女の子から手を離すと、腰にさした剣に手をかけた。
「ぶっ殺してやる! このやろう!」
男が背中の剣を抜いて切りかかってきた。リックは真顔で彼の剣を見つめる。
リックは男の剣が目の前に来ると右足で、地面を蹴って右斜め前に出て、剣をあっさりとかわした。横にすり抜け、男の背後に回った彼はは剣を引き抜いた。リックの剣は細く少し曲がったしなる銀色の剣だった。この剣は彼のお手製で、地元の鍛冶にら教わって作ったものだ。
リックが横から背後にすり抜けると、男は振り返って彼の剣を見て笑った。
「はははっ! なんだ?! そのほっせー剣はなめてんのかよ」
バカにしたように男が叫ぶと剣を持ち直し、リックに向かってもう一度きりかかってくる。男は走りながら、両手で剣を背中までもっていくと、リックの前まで来て、彼の脳天に向かって縦に振りおろした。
「遅いよ……」
リックは右手をすっと上げ、剣を水平にする、男の剣とリックの剣がぶつかると、彼は剣を斜め下に傾ける。男の剣はリックの剣を滑るように移動していく。リックは重心を右に移動し体を斜めする、男の剣はリックの剣に受けながされ地面をたたく。
剣を振り下ろした勢いを流された男は、前かがみに体勢を崩す。剣をすばやく返してリックは、にっこりとわらいながら、足を前にだし男の横に進み首に剣を上から振り下ろした。男が顔を横に向け目をつむった……
「まだやるかい? やってもいいけど、このまま首を切り落とすのは簡単だぜ?」
リックの剣は男の頭の真後ろで止まっていた。男は目を見開いて恥ずかしそうに叫ぶ。
「てってめぇ!? 覚えてろよ!」
男は捨て台詞を吐くと、慌てた様子で体を起こすと、剣をしまって去って行ってしまった。
「ふん。喧嘩を売る相手を間違うなよ」
ゆっくりとリックは剣を鞘におさめると女性の元へと近づく。目の前にいる眼鏡のエルフの女の子は、両手を前に組んで、こちらを見つめその目は少し潤んでいた。彼女の瞳は赤く綺麗で目は丸くてくりくりしてて顔は可愛らしい。
リックは彼女が震えてるのに気づき、優しく彼女の肩をつかむリックだった。彼女の眼鏡の奥の赤い瞳が、潤んで頬が赤くそまる。
「大丈夫だった?」
「私…… 怖くて…… ふぇぇぇぇん!」
エルフの女性が泣き出してしまった。泣く女性の頭をなでて落ち着かせるリックだった。頭をなでながら腰をかかげめたリックは、彼女の顔を覗き込む。リックの顔を見つめた女性は少しずつ落ち着きを取り戻し泣き止む。
涙をぬぐったエルフの女性とリックの目が合う、彼は少し笑顔を作って微笑みかける。
「恥ずかしい…… あっあの、助かりました。おっお名前は?」
「俺の名前はリックです。リック・ナイトウォーカーって言います」
リックの名前を聞いたエルフの女性は頬をさらに赤くしてうつむいた。恥ずかしがる可愛らしい彼女の行動に、リックの顔は自然と緩む。
改めてこういう姿を見たリックは、彼女を助けたように、騎士になって王女様を助けたいという気持ちがでてくるのだった。両親の反対を押し切りはるばる王都までやって来たリック、簡単に騎士になるのをあきらめるわけにはいかなかった。
決意を新たにしたリックの元に、カルロスが何事もなかったかのように近づいてきた。すごい笑顔で顔がキラキラと輝いてみえた、白々しく笑顔で、近づいてきたカルロスを、リックはうざかり侮蔑の視線を向ける。
「やっぱりお前さんはすごい」
「チっ。俺はもう一回試験を受けなおして騎士になるんで……」
舌打ちしてその場から去ろうとするリック、カルロスはリックの背中を見てにやりと笑う。
「残念だが入団試験は一回受けて不合格だともう受けられないんだよ」
「うぅ…… うるさい! じゃあ俺はこれで!」
カルロスの話を遮るリック、彼は女の子に挨拶して帰ろうした。リックを呼びとめるようにカルロスが話しかけてくる。
「まぁ、待ちなよ。お前さん。実は試験以外で騎士になる方法がひとつだけあるんだよ」
「えっ?! 騎士になれるって? どうすれば?」
「それはね……」
入団試験以外で騎士になれる方法とは、リックは立ち去ろうとした足を止め、カルロスの話に耳を傾けた。カルロスはニヤニヤして黙っている。リックは黙ってにやついている、カルロスにだんだんと不機嫌になっていく。
「(なんだよ…… もったいぶらないではやく教えろよ。あっ…… でも、この話の流れだと多分……)」
「防衛隊に入って実績を積むんだよ! そうすれば騎士団からスカウトされるよ」
「えっ?! やっぱり……」
カルロスの言葉を予想していたリックは落胆の声をあげる。だが、防衛隊に入って実績つみ、スカウトされることで騎士になれる。閉ざされた道が開かれるが、兵士は騎士と違って地味だ、リックは悩んで即答できなかった。
腕を組み真剣な顔でリックは悩みはじめた。
「あっあの?!」
リックが悩んでいるとると、さっきの眼鏡のエルフの女性が近づいてきて、彼を下から覗き込んで顔を近づけてくる。
さきほどは必死で気づかなったが彼女は、ちょっとヒールの高いブーツにミニスカートで、太ももがあらわになっており、さらに胸元を大きく開けて服を着ていた…… しかも、女性の胸は大きくいわゆる巨乳で、さらに下から覗いてくるから、顔を近づけられるとどんどんとリックに谷間がせまってくる。
頬を赤くして目をそらそうと必死に頑張るリックだったが、欲望には勝てずに女性の胸元に視線が固定される。なぜか、女性は上目遣いで瞳を潤ませ、谷間を強調するように腕を胸の前にして祈るポーズする。リックの顔が真っ赤になり頭に血が上る。すると女性が急に口を開いた。
「ぼっ防衛隊にいる男の人ってかっこいいですよ! だから、防衛隊に入ってください」
「やっやる! やります! 俺! 防衛隊入ります!」
リックに向かって防衛隊に入るように言う女性、リックの頭は谷間でいっぱいになっており、頭が回らないまま答えてしまった。
「あっ!?」
しまったという顔をするリック、その横で嬉しそうに笑う女性。カルロスがニタァという顔して手を伸ばした。カルロスは手には、いつの間に紙とペンを持っていた。近くの壁に紙を当て、机代わりにしたカルロスは、リックにペンを差し出した。
「はいはい、お前さん、ほらほらここにサインして!」
「えっ? あっ? はい!」
ペンをリックに渡して、壁にあてた紙の下部を指さしサインを、するようにうながすカルロス。リックは促されるようにサインを始める。だが、やはり兵士になるのはと躊躇してサインの手を止めた……
しかし、彼がサインする手を止めるとエルフの女性が、一瞬で悲しい顔して泣きそうになった。リックは悲しそうに自分を見る女性になぜか自分が悪いことをしている気分にされる。
「(わかったよ! 書くよ! 書くから! ほら!)」
あきらめてリックが書類をまた書き始めると、エルフの女性は笑顔になる。ホッと安堵するリック、だがどうみても彼女に操られて……
「えっ!?」
リックがサインを書き終わるとカルロスは、彼から書類をひったくるように奪い取り、すばやく書類を大事にポケットにしまった。
「よし! これで君ははれて第四防衛隊の隊員だ。決定! あと、そこの彼女はソフィアだよ。君の先輩で、相棒になる人だから、よろしくね」
「えっ? あっ、ちょっと?! えっ? 君も防衛隊の人なの?」
「はい。私は第四防衛隊の隊員でソフィア・シュラウドと言います。ふっ…… ふつつか者ですがよろしくお願いします。リック様」
ソフィアと言われた助けたエルフの女性は、リックの問いかけに、元気よく頷き自己紹介をしてきた。カルロスはソフィアの元にかけつけねぎらうように背中を軽くたたく。
「まさか、あそこで胸元開けて待機してろとは言ったけど酔っ払いに絡まれるなんて…… まっ結果として彼の実力も充分わかったしな。全部うまくいったからいいか。よくやったぞ!」
「隊長。わたし頑張れましたか?! やったーー! 少しだけ演技しましたけど…… やっぱりいっぱい怖かったんですよ」
「わかった、わかった。後でケーキおごるからね」
「えっ!? やったー! うれしいです」
「じゃあ、今から詰め所に案内するね。ついてきてリック君」
二人は和気あいあいと話しながらリックの前を歩いてく…… リックは全てを理解した。あらかじめ彼をひっかけるためにソフィアは待機していのだと…… はめられたリックは、呆然と先を歩く、二人の背中を見つめていた。
カルロスが振り返り、呆然とたたずむリックに、手招きをしている。ソフィアも振り向いて恥ずかしそうにリックを見つめる。
「早くきなよ。もう入隊のサインしちゃったんだから今更ごねてもダメだよ~」
「くっくそ! 兵士に訴え……」
「兵士に訴える? 僕のこと呼んだかい? それに、お前さんソフィアの胸に見とれて返事したのが無効って訴えるのか?」
「えぇ!? 私の胸って…… リッリック様のエッチ」
「うわぁぁぁぁぁ!」
こうして騎士の夢破れたリックは、王立第四防衛隊から騎士を目指すことになった。彼の夢はかなうのだろうか…… おそらく無理だろうな……
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