第3話 苦しい夜

彼女は手が空くと僕の傍に来る。

家の中ではずっと甘えてる。

僕の膝に頭を乗せて寝たり、横から突っついてきたり、ただじっと見てきたり…。


でもたまにそれが嫌だったりする。

きっと病気なんだと思うんだけど、

過去にも誰かにそうしてたんだろうなとか、

きっとこうすることで誰かと幸せな時間があったんだろうなとか…。


もしかしたら何も知らない真っ白な人といたらいいのかもしれないがそれはそれでつまらない。

けど誰か見えない影が遠くに見え隠れするのも辛い。これは自分が悪いだけ。彼女は何も悪くないから。


そういうのを抱えてまた彼女が眠ると僕は寝室を出て一人になる。


ソファに寝転んで天を仰いで憂いに沈む。

こんなにも彼女がいいのに苦しい。

『幸せ』を感じれば感じるほどそのすぐ裏側に『要らない不安』が黒い波となって押し寄せる。


そうなるとまた僕は自分の体に爪を立てる…。

でも本当はこんなじゃ足りない。


手首を噛むみたい。

頭をぶつけたい。

刃物で刺したい。

舌を噛みたい。


翠の処方薬を盗んで薬で飛ぶ事も眠ることも出来るが、それじゃつまらない。


痛みで不安を飛ばしたい。

でもそれでも消えきらないから押し寄せて流されるから今までは他を求めた。

誰でもいいから行為にふければ何も考えなくてよかった。


それでも事後に虚しさに襲われる。

口だけならなんでも言える。


けど翠にはもうそれをしたくなかった。

これ以上裏切りたくなかった。



だから僕は初めて、部屋を出る気持ちを抑えて翠にキスした。


すると翠は僕を抱き寄せて、


「ここに居て」と言う。

「…苦しい」と言うと、

「あたしはあんただけ。大丈夫」と答えてくれた。

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