第2話 大丈夫、ここにいる。
ドアの向こうにはいつものいつもがあった。
相変わらず僕の分だけのご飯を用意する。
「食わねーの?」
「見てたいの。」
「ったく。食わしてやるから食え。…知ってるか?翠の飯は最高に美味いんだぞ。」
「…知らなかった。」
「お姫様、お口をお開けなさい?」
彼女は吹き出して笑った。
「なにそれ。」
「口移しされたいか?」
「それされたいのあんたでしょ?」
「…俺はいつでもされたいよ?」
「…食べさせて。」
「口移し?」
「違う!普通でいい!」
「……。ダメだ。」
「お箸持ってきて。」
翠がお箸でおかずを切ると、僕に箸を戻した。
隣に椅子を移動して箸で取って優しく口に運ぶと、
「美味しい…」と言う。
「うちのレストランは五つ星だから。」と言うと、
「シェフにお礼は?」と。
僕はシェフの手を取ってキスして
「シェフ、いつも美味しい料理をありがとう。」と返す。
すると、「…生きててよかった。」と漏らす。
それを聞いて思いが溢れて、
「もっと生きて。毎日生きて、こうやって俺を見て。…俺は姐さんの笑う顔をみて幸せだって思うから。だからずっと俺だけ見てて。俺は姐さんのことずっと見てるから。ずっとずっと見てるから。」
そう返すと、優しいキスをくれた。
たまらず強引にキスし返した。
「お盛んね。」
彼女にそう言われて、
「ちゃんと食べたらもっと盛ってやるよ。」
と言うと、
「…お腹減った。」と言う。
「ほら、美味しいよ。」
と言うと、口を開けて、、咀嚼して、、飲み込む。
「お茶は?」
「飲む。」
こんな日々が幸せだと感じる。
一歩ドアを出ると彼女は見えない鎧をまとって強いフリをする。
でもドアの中では可愛い少女になったり、
僕に付けたリードを引いて爪の先で体を撫でてくる。
でもたまにおかしくなりそうになる。
彼女は僕の10個上。生まれてから今までの時間の中で別々に生きてた時間もある。
その中で僕以外の人間との『幸せな時間』も知っている。
たまにそれが見える。顔は見えずとも愛でられる彼女が見える。
そうなると彼女が眠るまで耐えてその後ベランダに出て柵の外に吸い込まれそうになる。
すると、彼女が来て、
『あたしはここにいる。今あたしの目に映ってるのは誰でもないあんた』と後ろから言われる。
今までなら無視したり、何も答えなかったが、今なら言える。ちゃんと答えられる。
「翠、俺ね、不安なんだ」って。
でも翠はそうやって言えた僕を抱き締めて
「何が不安?」って聞いてくれる。
そんな彼女に、
「…翠、俺だけ見てる?ちゃんと俺だけ見てる?」
って子供みたいに聞く。
翠はそんな僕を優しくすくい上げて、
「大丈夫よ。あたしはあんたしか見てない。いつだってあんだだけよ」って耳元で囁く。
彼女に抱き着いてしがみついて、
手首を噛むと、
「苦しいね。大丈夫。大丈夫よ。」
と言ってくれる。
一回こうなると止まらない。
でも翠は理解してくれている。
彼女は静かに僕の手を取って彼女の頬に当てる。
「どう?あたしは生きてる?死んでる?」
「生きてる。」
「なら何も怯えなくていい。」
そうして彼女は僕をつねる…
そうやって頭を冷やさせて『愛してる』って囁きながら僕の目を見る…。
そうしてくれれば落ち着いて部屋の中に戻れる。
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