第4話 悪夢のはじまり
コンコンコン。
「はぁーい、どちら様ぁ?」
「ジェシカよ」
「あらぁ、ジェシカちゃん……昨日は本当にありがとうね……アイン!! ジェシカちゃん来てるわよぉ〜」
「はぁーい」
洗面所から返事をする。
本当に来たのか。
「じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
ガチャンっ。
「ねぇ、あんたのお父さんは?」
「あぁ、仕事してるよ、街の警備だって」
「ふぅーーん、そうなの」
スタスタスタ。
まずい、女性との会話に慣れていない……。沈黙が続いてしまう……。
「あの、改めて、ジェシカさん、昨日は本当にありがとうございました」
「もう、昨日のことは忘れなさい。私が好きでやったことなんだから。……それに、ジェシカでいいわ」
……え? 呼び捨ては早くない?
「え、えっと、ジェシカ……ありがとう……」
「どう……いたしまして」
なんでそっちまで照れてんだよ……!!
これが巷で噂のラブコメなのか……?
「ところで……今日は、何をするの……?」
「それはねぇ……タノシイこ・と」
え、なになに。
カン、カン。
いやいやいや、楽しいことってチャンバラかよ!?
「あんたっ!! なかなか……やるわ……ね!」
こっちは言葉を返す余裕もない。
やぁあっとチャンバラ終わったぁ。
はぁはぁはぁ。キッツ。
「どうして……はぁはぁ、チャンバラなんです、か……はぁはぁ」
「それは、私の父が兵士だからよ。あんたんとこの父親も、そうでしょ」
「そうです、ね」
彼女の父親も兵士なのか……。
「だから、そんなに気高いんですね」
「え?」
「ジェシカさ……いえ、ジェシカが気高い理由がわかった気がします」
ジェシカはわかりやすく視線をそらす。どうやら照れているようだ。
「あ、あんたもやるじゃない……なかなか、気高い、わよ」
「ありがとお、ござい、ます」
こっちまで照れてしまうではないか……。
「あんた、そんだけやれるんだから、その枝で、剣で、ゾルたちをやっつけちゃえば良いのよ」
なるほど、その手があったか……。抵抗する……俺には無かった選択肢だ。
「良いですね。それ……!」
「で、でしょ……!」
ジェシカは満足げに腕組みをしていた。
なんやかんやで、楽しい日々は続いていた。
だが、専らジェシカとするのはチャンバラ。変わったのは、チャンバラで使っていた枝が木の棒にランクアップしたことくらい。
それと、最近ジェシカと良い感じなのだ。どんな感じ? と言われても良い感じ、としか言えないのだが。
それ以外はほとんど何も変わらない日々を過ごしていた。ずっと続いて欲しかった。
あんなことになるのなら、変わらなくてよかった……。
******
悪夢は突然、訪れる。奇しくもそれは俺の誕生日だった。
「十歳の誕生日……おめでとう」
母はすすり泣いている。
「泣くなぁ。せっかくの記念日だぞ」
「そう、ね。ごめんね、嬉しくって」
「ありがとうございます」
ゴォオオオオオン。
「それにしても、すごい雨と雷ですね」
「そうだなぁ。まぁ、大丈夫だろう。食べようか」
「そうですね」
「大地の恵みに感謝して、いただきます」
みんなで揃って、いただきますを言う。
美味しい。やっぱり母さんのビーフシチューは絶品だ。
母の味に、ほっと息をついていた頃。
「おぉ、そうだ、これ」
父がおもむろに机の下から何かを取り出す。
「これ、十歳の記念だ」
彼が俺に差し出してくれたのは、木剣と一冊の本だった。
「よく、ジェシカちゃんと剣の訓練やってるだろ。その時に使いなさい。ジェシカちゃんのお父さんにも話して、彼女も木剣を買ってもらうことになってるから」
「この本は……?」
「あぁ、これは魔術教本だ」
そうこの世には魔法が存在する。といっても魔法が実際に使われているところを見たのは、母の水魔法と火魔法くらいだ。
「え、じゃぁ、俺ついに……」
「あぁそうだ。明日から魔術の練習だ!!」
嬉しい。こんなに嬉しい誕生日プレゼントは初めてだった。
「ありがとう! お父さ……」
その時だった。
バンっ。
と、父の後ろの扉が蹴り開けられる。
そこには二人の白装束が立っていた。
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