第2話 ジェシカとの出会い


 俺は本当に転生したらしい。


「おはよー、アインクラッドぉ*******」


 このとおり言葉も少しわかるようになった。


「おあよー」


「ふふっ、あなたー******」


 こんな風に喋り返せば笑いかけてくれる。

 こうするのが最近のマイブームだ。


 生まれてからあまり日が経っていないからだろうか。ワクワクするんだ。目に映り込む全てのものが新鮮に見える。


 あ、そろそろ、来る……。




 ふぁぁ。


 このように、すぐ眠くなる。それゆえ一日がとても短く感じる。

 生まれてからどのくらい経ったのかもわからない。


 てか、俺いつまで寝てんだ……立てんじゃね……?


 腹筋に力を入れ、起き上がっ……れない。


 考えろ、考えるんだ。どうやったら立てるか……。



 思い出したぞ……。確か赤ちゃんは寝返り、お座り、ハイハイの順で地に足をつける……。


 てことは、だ……まずは、寝返りをして、と。それから、えぇと、お座りお座り……くっ力が……。


 ふぅふぅふぅ。一旦寝返り状態に戻って…………いくぞ! えい!


「いぇあ」


 座っ……た……。



 え、こんなに世界って、綺麗だったっけ……。


 こんなにも、キラキラしてたっけ。

 ちゃんと、まっすぐからこの世界を見るのは、初めてだった。


「いぇえあ」


 母と目が合う。


「え、***、あなた〜アインが、アインがお座りしてるー!!!」


 そんなに興奮することだろうか?

 子供を持ったことがないから、わからなかった。




「おぉ、良い子でちゅね〜」


 ほっぺをつつかれてる。


「うぁ」


「ほんとに大人しい良い子ねぇ」


「そうだな、ママの子供だからな」


「やだ、あなたったらぁ」


 このとおり夫婦仲は良好だ。


 この日、俺は赤ちゃん用ベッドを卒業した。




 それからというもの俺の行動範囲は家の中、全てとなった。トイレの中、棚の中、などなど、そして二階だ。


 そう、うちは二階建て。階段は一段ずつ、慎重にのぼっていく。


 と言っても二階には何もない。母の部屋と父の部屋、空き部屋が一室、それと物置きだ。

 物置きには本か何かがあるかもしれないが今はこの体だ……どうしようもない。


 あ、そうそう。夜、寝る前には決まってある本を母が読んでくれる。その名も……。


「じゃぁ、今日も、**の**を読んでいくわよぉ」


 まだ、内容はわからない。いずれわかる日が来るだろう。





 赤ちゃんベッドを卒業してから、どれくらいだろうか……。とにかく時間が過ぎ、歩くことがとても楽になって、言葉もかなりわかるようになった。


 この頃には、すっかり俺も家族に馴染んでいた。家族を好きになった。


 昔の親は……思い出したくないな……。


 ともかくだ。俺は生きることが楽しくなった。


 それに、本の内容もわかるようになったんだ。

 説明すると……。


 題名は、呪いの王。

 大まかな内容は、一人の少年がアストレアスという国の王になり、他の国を侵攻し領地を拡大していくお話。だが、暴虐の限りを尽くした王は他の種族から呪いを受けて、この世から姿を消す。


 といった感じだ。物語に出てきたアストレアスは実在する国である。なぜ、母がこの話を寝る前にするのかはわからない。


 普通、こんな話しないと思う。俺だったらボーボボを読み聞かせる。母の品性を少し疑うが、彼女はとても良い人だ。

 ありがたいことに。




 また時が経った。


 その頃には外に出るようになっていた。


 最初は怖かった。家族以外の人間が。だけど、すぐに慣れた。ここは町外れの農村らしい。

 街にも行った。人がいっぱいで久しぶりに緊張したが、親が近くにいたから大丈夫だ。


 そして一つわかったことがある。

 どうやらうちは少し裕福であるらしい、ということだ。

 と言っても街に住んでいる人たちには及ばないかもしれない。


 だが農村では間違いなく一番裕福だ。

 家は広いし、庭も広い。それに庭には馬の厩舎、物置きもある。


 そして、親はもしかしたら高貴な家の出かもしれない。

 というのも、文字の勉強を始めているのだ。この世界では普通、栄えている都市や知識階級でしか文字は利用されないらしい。


 なのに父と母は読み書きができる。つまりそういうことなのだろう。



「俺は……つくづく幸せもんだなぁ」


 前世では絶対出ない言葉だな……。


 ははっ。


 自分で言ってておかしくなる……。本当に神様には感謝だな。



 そんな毎日がいつまでも続く。そう思っていた。





「アイン、お誕生日おめでとう」


「ありがとうございます。母さん、父さん」


 今日は誕生日。五年に一度のお祝いの日。俺が五歳になった日だ。


 この世界では十五歳が成人で、五歳、十歳、十五歳と、五の倍数で歳を祝う。今日は五年に一度、人生で三回しかない祝いの日の一日だ。


 今日はどんな一日になるのだろうか……。


「今日も丘の木の上で昼寝をするのかい?」


 父さんの言うとおり、そうするのもありだな。


「そうね、昼ごはんを食べたら外に行ってなさい?」


 ん、今日の母さんちょっと強引だな……さては、サプライズでもあったりして……。

 よし、決めた! 母さんたちの口車に乗ろう!


「うん、わかった。そうする」




 てことで……昼ごはんも食べ終わったことですし、いつもの木の下へ行きますかっと……。


 あれ? 木の下にこの村の子供達がいる……?


 今、真ん中の子と目が合った。


 え、こっちに走ってくるんですけど……。なんか嫌な予感……。



「お前、今日五歳の誕生日だってなぁ」


「は、はい。おかげさまで……」


「おら、プレゼントだよぉ!!!」


 そう言われて、彼から届いたのは拳だった。


「お前んち、ちょっと裕福だからって、舐めやがってよぉ」


「その黒髪、気味悪いんだよ」


「そうだそうだ!」


 殴られて倒れた俺は、この集団のリーダーと思しき彼に見下ろされながら、口々に悪口を言われていた。


 思い出されるのは過去の記憶、前世の記憶だ。

 いじめられていた日々。


 無視されるのは当たり前。物は壊されるし、暴力も振るわれた。担任は知らんぷり。親には……言えなかった。言っても無駄だと思っていたから。

 その気持ちは今でも変わらない。


 昔から厳しい親だった。

 小学生になる前から習い事は何個も掛け持ちしていたし、小三からは塾にも通った。


 だけど俺は中学受験を失敗した。



 それからというもの、親は俺に見向きもしなくなった。辛かった。


 それでも俺は懸命に、親に愛されようとしていい子を演じ続けた。



 そんな日々がまた始まってしまうのか……そう思った時……。


 彼女が現れた。


「あんたたち!! 何やってんの!!!」


「うわ!? ジェシカだっ。逃げるぞ! お前ら!!」


「ほんと、ゾルのやつ、バカなんだから……あんた、怪我してない? 大丈夫?」



 そう手をこちらに差し伸べる彼女はロングの赤髪で、燃えるような目をした女の子だった。


 これが彼女、ジェシカとの出会いだった。






















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