偶然の出会いが、人生にそっと残す余韻の美しさを感じさせてくれる物語です。

　ただの食事、ただの会話が、心のどこかに小さな灯をともす。
　ひとりの時間を楽しめる大人だからこそ、他者と過ごす時間の尊さを知っている。
　何気ない視線の交錯、思わぬシェア、心地よい会話のリズム。
　どれも一瞬で過ぎ去るけれど、その温度だけは確かに心に残るのです。

　相手の言葉や仕草にじんわりと心が動き、でも踏み出せなかったあの瞬間。
　その甘くてほろ苦い余韻が、読後もふわりと胸に広がります。
　夜の静けさに包まれながら、次の偶然を待つ主人公の気持ちに寄り添いたくなる物語でした。

　余談になりますが、この作品に合う杏里の歌を選ぶなら 「思いきりアメリカン」 でしょうか。

　「あなたと出会った頃の私は ただの女の子」
　「燃えるような恋じゃなくても そんな夢を見たの」
　「すれ違いもそのうち きっと楽しい思い出に変わるわ」

　さりげない日常の中に生まれるときめきと切なさが、この物語とぴったり重なる気がします。