第4話 微熱

鈴木の胸から、力強い鼓動が聞こえる。少なくとも、特別な存在だと思っていることを知り、動揺と、抑えきれないドキドキが、交互に押し寄せてくる。

鈴木は、早苗の腕と髪に触れていたが、ゆっくりと、優しく、背中に手を回し、早苗を抱きしめた。


ぎこちないながらも、早苗も鈴木の背中に手を回した。細身だが、決して痩せ細っているわけではなく厚みのある背中だった。大柄な早苗が腕を回しても、わずかに届くだけで、普段見ることのない鈴木の男らしい部分を知った。鈴木の腕が自分の背中に回っていて、自分の手も鈴木の背中にある。その事実が、早苗の心を不思議な感覚で満たした。


3日前のメールを受け取るまではこんな関係になるとは思っていなかった。早苗は戸惑いながらも、どこか嬉しさを感じていた。そして、しばらくの沈黙が流れたが破ったのは、鈴木だった。

「あのさ…俺、楠木のこと抱きしめたんだけど、楠木も手を回したってことは、同じ気持ちだと思っていいんだよな?」


………。こんな時くらい、「好き。」とか中高生の告白みたいに言葉でわかりやすく伝えてほしいと思ったが恥ずかしさが勝り言葉にならず首を縦に振ることしかできなかった。


鈴木は、早苗の反応を見て、安堵の表情を浮かべた。ゆっくりと顔を下げ、見つめ合うような形になった。早苗の背中にあった鈴木の手が、少しずつ上にあがっていく。まるで、壊れやすい繊細なものを扱うかのように、優しく、指を這わせる。ゆっくりと背中から首筋を通り、頬を包む。その指先の温かさが、早苗の肌を通して、心にまで伝わってくるようだった。


早苗は、鈴木の指が頬に触れた瞬間、ぴくりと反応した。「んっ…」と、小さく吐息が漏れた。いつもとは違う、どこか甘く、”女”の一面を覗かせていることに、早苗は少し恥ずかしさを感じたが、ゆっくりと目を閉じて優しく、長いキスをした。


ただ唇を重ねるだけのキスではなく、お互いの気持ちを確かめ合うような、深く、温かいキスだった。今までの同僚としての距離感とは全く違う、特別な距離感で、鈴木を感じていた。鈴木の息遣い、体温、唇の柔らかさ。全てが、早苗の五感を刺激し、今まで感じたことのない感情を呼び起こした。

キスが終わると、鈴木の顔を見て優しく微笑んだ。

「ありがとう」その一言に、早苗の胸は熱くなった。





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