第2話
そして翌日、礼拝を終え、母を家に戻した後、私は私服のまま街へと出た。
そのまま駅へ向かい、そこで終わらせようと思っていた。
自傷は、きっと痛みに耐えかねて母の様に死にきれないかもと子供ながらに考えた結果だった。
駅までと言っても駅までは徒歩で40分もかかる。
私はその見慣れた景色を眺めながら、父を思い出していた。
あそこの公園でよく遊んだとか、あの駄菓子屋で母に内緒で2人でお菓子を食べたとか、
あの信号機で一度轢かれそうになったとか、
大きな犬が怖くて、あの家の前だけは父に抱っこして貰っていたとか。
様々な記憶が私の頭を駆け巡りながら、どんどんと景色は変わり、人通りも増していく。
(ああ…こんなに悲しいのに、もう涙の一滴もでないんだ…)
そうしてとぼとぼと一人で歩いていると、父が熱心に通っていたCDショップの前に差し掛かった。
(ここ…)
私は昔の父の幻覚に導かれる様にしてCDショップへと入った。
すると店内は何かのイベントなのだろうか、男性の姿が大きく引き伸ばされたポスターが何枚も貼られ、大量のCDが棚に陳列してあり、その奥には小さなブースが設けられていた。
(あれ、もしかして入っちゃいけなかったかな…)
異常な店内の雰囲気に、私がひっそりと外へ出ようとしたその時、後ろから爆発音のように大きな声が響いてきた。
「い〜〜〜らっしゃあああああああい!!!!!!
「えっ、あ、いや!私お金持ってな…!」
そうして強引に店の奥のブースへと引き摺られていくと、そこには大学生にしても幼い顔立ちをした青年が顔とは不釣り合いな黒のシックなジャケットを着て立っていた。
「うわぁ〜はじめまして!!会いに来てくれてありがとう!!」
陽だまりのように温かく、無邪気なその笑顔に、私は呆然と立ち尽くし、気が付けば涙が零れていた。
「えぇ!?泣いてる!?ちょっ!姫川さん、これはどうすれば…!?」
「なに情けないこと言ってんの!アイドルでしょ!?自分のファンの笑顔くらい引き出せなくてどうするの!貴方がなんとかしないさい!」
「えぇ!?あぁ…えぇ…と〜」
これが私の、いまいちパッとしないアイドル浅葱との出会いだった。
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