目覚めたらぬいぐるみになっていました。②

椿

プロローグ

第1話

父が死んでから、母と居るのが苦痛だった。



本当は私だって泣き喚きたかった。



父が死んで、私だって悲しかったから。



でも母はそれを許してくれなかった。



私が泣く余裕すら彼女は私にくれなかった。



度重なる自殺未遂、



私は何度母の血を見ただろう。



私は疲れていた。



まるで母と子の立場が逆転したかのように、病院から連絡がある度に学校から母のもとへの駆け付ける日々。



「2人きりの家族」



そんな言葉を母が私に向かって言う度に、確実に心がすり減っていくのを感じた。



そしてある時、母はパタリと自傷行為をしなくなった。



ようやく、立ち直ってくれたのかと、



ようやく、私は父の死を悲しんでも良いのかと、



そう思ったが、違った。



母は病院で出会った新興宗教に入信したという。



それを聞かされた時、私はその神を殺したかった。



母は父を失い、壊れてしまったのだ。



母にとって父は、唯一無二のパーツだったのだろう。



しかし母は、二度と取り戻すことの出来ないそのパーツを他の何かで埋めようとして、自ら余計に破壊を進めていたのだ。



それが今度は"神"ときた。



神が仮に存在するとしても、母が求める父は帰っては来ない。



神を信じることで父が蘇るのなら、この世に"死"という概念すらないはずだ。



しかし、母の信じる神を否定すれば否定するほど、母は頑なに神に縋り、祈った。



(神を殺せないなら、私が死ねばいいんだ)



バイトからの帰り道、私はふとそんなことを思い付いた。



そうだ、死ねば良いんだ。



そう自分の中で決着がついた時、一気に体と心が軽くなるのを感じた。



(明日死のう)



帰宅後、そう思いながらの母との会話は思いのほか楽しかった。



壊れた母ともこれで最後と思うと、いつもの作り笑顔ではなく、自然と微笑むことが出来た。

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