古代の遺跡 4
ダンジョンを出た後、帰還アイテムを取り出す。この小さな光る石に全てがかかっている。深呼吸を一つして集中する。じんわりと手の中で温かくなる感覚とともに、視界が一瞬歪む。気がつけば目の前には見慣れた帰還ポイント。ひんやりとした外気が肌に触れる。湿った空気の重さがないだけで、体が少し軽く感じる。
全身の疲労が波のように押し寄せてくるが、ここで座り込むわけにはいかない。まずは換金所だ。手元の戦利品を現金に換えておかないと、次の準備もままならない。1階の換金所に向かう途中、他の冒険者たちの声が耳に入る。それぞれに収穫物や戦いの成果を手にし、誰もがどこか安堵した表情を浮かべている。こうやって皆、ダンジョンで生き延びているんだな。
自分の番が来た。バッグから今日の戦利品を取り出し、カウンターに並べる。スタッフの慣れた手つきで品物を一つずつ調べていくのを見つめる。あれだけの苦労をした素材たちが、こうして値段に変わる。その過程をじっと見ていると、妙に現実味を感じる。
風の結晶3つで12,000円。結晶片1つが3,000円。ウィンドリザードの鱗が5つで3,500円。尻尾3つで3,600円、風袋が2つで4,000円。ブレイズウィンドの結晶核は8,000円、硬化鱗が5,500円。合計で39,600円。数字として見れば、それなりに大きな額だ。けれど、これで新しい装備を揃えたら、ほとんど消えてしまうんだろう。
現金を手にすると、わずかに肩の力が抜ける。この紙切れが命を繋ぐ準備のすべて。だからこそ、無駄遣いはできない。バッグを閉じ、防具店へ向かうために歩き出す。ここからが本番だ。次のダンジョンに挑むには、さらに強化された装備が必要になる。
防具店のドアを開けると、金属が擦れるような音が耳に入る。店内に並ぶ防具の数々が、どれも誇らしげに輝いている。風を纏うダンジョンに挑む者たちを守るために作られた道具。選ぶべきものが何なのか、慎重に目を走らせる。
最初に目に留まったのは「ウィンドメイル」。軽量なチェストプレートで、ウィンドリザードの鱗を使ったものらしい。風属性の攻撃を軽減するというその特性に、自然と手が伸びる。値札は9,000円。悪くない価格だ。これがあれば、次の戦いでもっと長く持ちこたえられる。
次は脚防具。視線が止まったのは「ゲイルグリーブ」。これもウィンドリザードの素材を用いて作られたもので、軽量ながら耐久性がある。さらに、機動力を高める効果がついていると説明書きがある。これでダンジョン内をもっと素早く動けるだろう。価格は6,500円。これも買いだ。
最後は腕防具だ。「ストームガード」と書かれたものが目を引く。ブレイズウィンドの硬化鱗を使ったもので、衝撃を和らげる能力があるらしい。防御を強化しつつ、腕を守れるというのはありがたい。値段は11,000円とやや高めだが、それだけの価値はありそうだ。
これらを合わせて26,500円。これで次の挑戦に必要な装備が整う。現金を手渡し、購入品を受け取る。店を出るとき、手にした装備の重さが次の挑戦への覚悟を思い出させる。これを使いこなせなければ、ただの飾りで終わる。そうならないよう、自分を鍛えなければ。
腹の音が鳴る。ここまで動き回った疲れと空腹が、休息を求めているのが分かる。商店街を歩きながら、次は何を食べるか考える。今日は少し奮発してもいいだろう。そう思い、目に留まった食堂に足を運ぶ。
食堂に入ると、香ばしい匂いが鼻をくすぐる。どの席もにぎわっていて、冒険者たちが思い思いに疲れを癒している。ここで食事をするのは初めてだが、この雰囲気だけで少し安心感がある。メニューを開いて目を走らせると、真っ先に目を引いたのが「ハーブコカトリスプレート」。香草で味付けされた肉料理に、ライスとスープがセットだ。価格は1,500円。手頃で満足感がありそうだ。
注文を済ませ、しばらくすると料理が運ばれてくる。湯気を立てるハーブの香りが広がり、疲れた体がほぐれていくようだ。ナイフを手に取り、一切れ切り取る。肉の柔らかさが伝わり、口に運ぶと、ハーブの風味が広がる。この味は心の底から満たされる。冒険の疲れを取るのに、これ以上のものはない。
ライスを一口、スープを一口。どちらも余計な主張はなく、メインのコカトリスを引き立てる脇役だ。食事を進めるごとに、次第に体が軽くなる気がする。この瞬間だけは、ダンジョンの戦いを忘れてもいい。
食べ終える頃には、満足感と同時に次の挑戦への力が湧いてくる。支払いを済ませ、食堂を出るとき、外の空気が少しだけ澄んでいるように感じた。この満腹感を糧にして、明日はもっと深く遺跡に挑む。そう思うと足取りが自然と軽くなる。
自宅に戻り、購入した防具を確認する。ウィンドメイル、ゲイルグリーブ、ストームガード。これらを丁寧に並べ、次の挑戦への準備を整える。そしてシャワーを浴びて体をほぐすと、疲労が水とともに流れていくようだ。
湯上がりにリビングのソファに腰を下ろし、スマートフォンを手に取る。次のダンジョン攻略の情報を確認する時間だ。未踏の区域に潜むという「テンペストガーゴイル」の情報を読み込む。その硬さと風の力をどう攻略するか、考えるだけで身震いするが、それを越えた先にはさらなる素材が待っている。
時計を見上げると、日付が変わる直前だった。明日への準備は万端だ。ベッドに横たわり、ゆっくりと目を閉じる。遺跡の風が再び耳元に響くその時を思い描きながら、深い眠りに落ちた。
[Tips]
ウィンドメイル
ウィンドリザードの鱗を使用した軽量なチェストプレート。風属性の魔力を反射・軽減する効果があり、防御性能と機動性を両立した設計。特に風属性の攻撃に対して優れた耐性を発揮するため、風系ダンジョンの攻略には最適。
ゲイルグリーブ
ウィンドリザードの素材を活用して作られた脚防具。軽量で耐久性が高く、装備者の機動力を向上させる特殊効果を持つ。険しい地形や風圧の強いエリアでも安定した動きを可能にする優れた性能を誇る。
ストームガード
ブレイズウィンドの硬化鱗を用いた腕防具。衝撃吸収能力に優れ、敵の攻撃から腕を確実に守るだけでなく、装備者の力を効率的に伝える設計が施されている。特に高威力の攻撃を多用する冒険者に適している。
所持金:7万4500円
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