古代の遺跡 2

古代の遺跡の第二階層に足を踏み入れた瞬間、湿気を含んだ冷たい空気が肌にまとわりつく。この独特の雰囲気、嫌いじゃない。けれど、気を抜けない。壁には風化した彫刻、足元には無数の石片――過去の栄光の欠片だろうか。その上を踏みしめるたびに、何かを壊しているような感覚が湧く。


天井の崩れかけた石像。あれは崩れる気配がないだろうな。こんな場所で不意打ちはごめんだ。剣をしっかりと握り直し、石像の視線を避けながら足を進める。壁の装飾は精緻だが、その意味を解読する余裕はない。ただ、風が通路を駆け抜ける音がやけに耳に残る。不気味だが、ここに入った以上覚悟はできている。


通路を抜けると、視界が一気に広がった。最初の広間だ。中央には小さな風の渦が巻き上がり、その周囲に蠢く影。ウィンドリザード――風属性を持つトカゲ型モンスター。姿は小さいが、油断すればその尻尾の風刃で斬られる。記録ではそう読んだ。だが実際に目の前で見ると、思った以上に威圧感がある。


二匹。まだ数は少ない。一匹がこちらを警戒しながら唸り声を上げた。尻尾をゆっくりと振るう。その動き一つ一つが、いつでも攻撃を仕掛けてくる合図のように見える。こちらも呼吸を整え、剣を構え直す。一歩ずつ間合いを詰めるたびに、心拍が少しずつ早くなる。


先手を取ったのはリザードだ。尻尾を大きく振り、鋭い風刃を放ってきた。それを横へかわしながら、懐に飛び込む。だが、一撃で仕留められるほど甘くはない。剣が硬い鱗に弾かれる感触。攻撃は通じたが、致命傷には至らない。それでもリザードが一瞬体勢を崩した。この隙を逃すわけにはいかない。


二撃目。刃が柔らかい腹部を捉えた瞬間、リザードが低い鳴き声を上げながら地面に崩れ落ちた。まず一匹。だが、気を抜く暇はない。残りの一匹が鋭い視線をこちらに向けている。息を整え、動きを観察する。この状況で焦るのは愚策だ。


二匹目は慎重だ。距離を取りながらこちらの隙を伺っている。再び尻尾を振り上げ、風刃が飛ぶ。それをかわし、再び接近するが、リザードの動きは思った以上に素早い。こちらが剣を振るたびに跳び退き、隙を見せない。だが、尻尾が再び振り上げられた瞬間、動きを読んで横に回り込む。次の一撃で確実に仕留める。


剣がリザードの尻尾を捉え、動きが鈍る。その隙を突いて全力で胴体に剣を突き刺した。刃が深く入り、リザードが苦しむように鳴き声を上げながら地面に倒れ込む。広間に再び静けさが戻るが、こちらの体も汗でじっとりと湿っている。二匹倒しただけでこれか。まだまだ先が長い。


だが、広間の奥から気配がする。剣を握る手に力を込め、そちらに視線を向ける。見えてきたのは、先ほどの二匹よりもさらに多い三匹のリザード。今度は数だけでなく、動きの連携まで見て取れる。敵は確実にこちらを仕留めに来ている。


まずは一匹。確実に減らしていくことを考える。広間に響く風刃の音を聞きながら、疲労を無視して動き続けるしかない。この戦い、長引きそうだ。


三匹のウィンドリザードが広間に散らばりながら、こちらを取り囲むように動き始めた。尻尾を振り上げる音がかすかに響き、そこから風刃が放たれる気配がする。この数の攻撃をさばききれるのか――いや、そんなことを考える余裕はない。目の前の一匹、一撃ずつ確実に仕留める。それだけだ。


まずは一番近くにいるリザードを狙う。風刃の軌道を読み、足元に気を配りながら接近する。広間中央に立つ風の渦が、彼らの力を増幅しているように見える。それでも怯むわけにはいかない。剣を構え、動きを読み、踏み込む。


最初の一撃。刃が胴体を掠めるが、相手の鱗に弾かれた感触が伝わる。完全には仕留められない。それどころか、他の二匹が尻尾を振り上げ、風刃を放ってくる。横へ跳び退りながら、他の攻撃をかわす。複数の敵と同時に相対する厳しさがじわじわと体にのしかかる。


呼吸を整え直し、次の一手を考える。一匹目に集中するために周囲を警戒しながら動きを制御する必要がある。再び接近し、素早く振り下ろした剣が胴体の柔らかい部分に深く入り込む。リザードが鳴き声を上げながら崩れ落ちた。まずは一匹。これで少しは余裕ができるはずだ。


だが、残りの二匹はすぐに反撃の態勢を整えた。一匹が距離を詰め、もう一匹が遠くから風刃を放つ。連携が取れている。攻撃を受け流しながら、一撃の隙を狙うが、簡単にはその隙を与えてくれない。


ポーションを取り出し、一口飲む。冷たい液体が喉を通り、体の疲労が少しだけ軽くなる感覚。それでも、この戦いの終わりが見えないことが、心の奥底に重くのしかかる。だが、諦めるわけにはいかない。次の一匹を狙う。


動きの遅いリザードを優先的に狙う。風刃をかわしながら接近し、剣を振り下ろす。その刃が尻尾を切り裂き、リザードがバランスを崩した。その瞬間を見逃さず、胴体を貫く一撃を加える。リザードが地面に崩れ落ちると同時に、広間が少しだけ静かになる。

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