森の地下洞窟 2
湿った空気がまとわりつく。苔むした壁を見上げながら、これは明らかに先ほどまでとは違う。湿度が重く、足元のぬかるみは靴底を吸い込むようだ。手のひらに汗が滲む。鉄の剣を握る感触が頼りない。初心者向けのダンジョンだと言われたが、どうしてここまで心を締め付けるのか。たかが湿気だ、何を怖がる必要がある?自分にそう言い聞かせながら、一歩ずつ進む。
広間に入った途端、目に飛び込んできたのは、床一面を覆う不気味な光沢。水たまりではない、それは動いている。視線を凝らすと、それが巨大なナメクジ型のモンスター、グラウンドスラッグだとわかった。体長1メートル以上。粘液に覆われたその姿が、奇妙に光を反射している。その粘液が毒性を持っていることは知識として知っている。だが、実際に目の前で見ると、それ以上の恐怖を感じる。
深呼吸をして剣を構える。これまで通り、慎重に動けば倒せるはずだ。そう思っていたが、剣を振り下ろした刹那、刃が粘液に滑り、手応えが消えた。攻撃は浅く、スラッグは動きを止めない。むしろじりじりとこちらに迫り、その粘液で地面を覆っていく。足元が不安定になり、動きが鈍る。焦るな、これは初めての敵ではない。しっかりと弱点を狙えばいい。
動きが遅いのは救いだが、その分粘液が広がる速度は速い。足元を奪われる前に決着をつけるしかない。スラッグが体をくねらせて突進してくる。横へかわしながら剣を突き出す。柔らかそうに見える体の一部を捉えた感触がある。小さな悲鳴を上げてスラッグが崩れ落ちた。倒した。一匹目だ。剣を見下ろすと、べったりと粘液が付着している。その匂いが鼻を刺す。これが毒か。少しずつ剣を拭いながら、奥を睨む。
まだいる。二匹目のスラッグがこちらに向かってきた。さっきよりも体が大きい。粘液も一層広範囲に広がっている。このままでは動きを封じられる。間合いを保ちながら、相手の出方を観察する。だが、動きが鈍いわけではない。じりじりと間合いを詰めるその動きには、何か狡猾さを感じる。
剣を振り下ろすタイミングを計りながら、少しずつ後退する。スラッグが一気に突進してきたその瞬間、素早く横へかわして剣を振る。刃が柔らかい体を捉えたが、それでも動きを止めない。もう一撃だ。足元が滑る感覚を無視して再び剣を振り上げ、スラッグの胴体に深く突き刺す。粘液が飛び散り、しぶとかった二匹目がようやく動きを止めた。
全身に疲労が押し寄せる。剣を支える腕が重い。それでもまだ終わりではない。広間の奥に、さらに巨大な影が動いているのが見える。その大きさと光沢は明らかに他のスラッグとは異なる。リーダーだ。全身に力を入れ直し、剣を握る手に決意を込める。これを倒せば、この広間は突破できる。
リーダーのスラッグが、広間の奥からゆっくりと姿を現す。その巨体は他のスラッグを圧倒する存在感を放っている。全身を覆う粘液が異様に輝き、まるでこの広間そのものが動き出したように感じられる。深く息を吸い込み、剣を握る手に再び力を込める。この戦いで負けるわけにはいかない。目の前の脅威を乗り越えなければ、次には進めない。
リーダーは動きこそ遅いが、その存在感と広範囲に広がる粘液が圧倒的だ。足元を奪われれば、一瞬で形勢が逆転する。慎重に間合いを取りながら、リーダーの動きを観察する。その巨体がじりじりとこちらに迫ってくるのを見て、心臓が早鐘を打つ。この戦いで失敗すれば、自分の未熟さを思い知らされるだろう。そんな想いを振り払い、剣を構える。
リーダーが動きを大きく変えることはない。その体表の粘液が全てを拒絶するかのように輝いている。だが、動きに一定のリズムがあることに気づいた。その瞬間を狙って攻撃を加えるしかない。剣を振り下ろすと、刃が粘液で滑る感触がする。それでも僅かに手応えがあった。体の柔らかい部分に攻撃を通せば倒せる可能性が見えてくる。
リーダーが巨体を揺らしながら粘液をさらに広げてくる。足元の感触が不安定になり、剣を振る速度も落ちる。このままでは消耗戦になる。次の一手で状況を打開しなければならない。深呼吸をしながら、相手の動きに集中する。体表の一部に光沢が薄い部分があることに気づく。そこが弱点だ。
剣を持つ手に全力を込め、リーダーの動きを引きつける。突進してくるタイミングを見計らい、足元の不安定さを無視して全力で斬り込む。刃が粘液を貫き、リーダーの体表に深い傷をつけた。リーダーがその巨体を揺らしながら甲高い音を上げる。その隙を逃さず、もう一撃を加える。
全身が重く感じられる。それでも剣を振る手を止めるわけにはいかない。リーダーが最後の力を振り絞って動き出すが、その動きには明らかに勢いがない。体の柔らかい部分を捉えた攻撃が確実に効いている。最後の一撃を放つべく、全力で距離を詰め、剣を振り下ろす。
刃がリーダーの首元に深く刺さると、巨体が震え、粘液を周囲に撒き散らしながら崩れ落ちた。広間に静寂が戻る。その瞬間、全身に力が抜け、剣を支える手が震えるのを感じる。終わった。リーダーを倒した。
リーダーのスラッグの体から「粘性毒液」と「巨大粘液核」を手に入れる。これらの素材は間違いなく貴重なものだろう。剣を慎重に拭い、体についた粘液を払い落とす。疲労が襲ってくるが、この広間を越えた達成感がそれを上回る。
深く息を吐き、次の通路へ向かう準備を整える。これがダンジョンの戦いだ。一歩ずつ進むしかない。
◯収集アイテム
・粘性毒液
・巨大粘液核
[Tips]
粘性毒液
毒性を持つスライム型モンスターから採取される液体。高い粘度を有し、接触した物質に付着しやすい特性を持つ。主に毒系のポーションやトラップの素材として使用されるほか、武器に塗布することで追加効果を付与できる。取り扱いには注意が必要で、直接触れると危険。
巨大粘液核
大型スライムモンスターの中心部から得られるコア状の物質。スライムのエネルギー源であり、高い魔力を内包しているのが特徴。魔法道具や強化素材として重宝され、錬金術の分野でも需要が高い。加工することで武器や防具に特定の属性効果を付与することが可能。
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