孤独のダンジョン~ソロで攻略するときはね、誰にも邪魔されず、自由で、なんというか、救われてなきゃあダメなんだ。独りで、静かで、豊かで……~
☆ほしい
森の地下洞窟
森の地下洞窟 1
森の地下洞窟。初心者向けだというけど、そんな言葉に油断できるわけがない。入口から漂ってくる冷気と湿った匂いが既に嫌な予感をさせる。この匂い、土と苔、それに何か得体の知れないものが混じっている。鉄の剣を強く握る。緊張を抑えるために深呼吸。進むしかない。
通路は想像以上に狭い。体を横にしないと進めないほどの箇所もある。壁に手をつくと冷たくて湿っぽい苔が指先に触れる。最悪だ。歩くたびに小石が靴の下で音を立てる。その音がやけに大きく聞こえるのは気のせいじゃない。周囲が静まり返っているせいだ。これじゃ自分が獲物ですと言っているようなものだろう。落ち着け、これはダンジョンだ。こんなものだ。
通路が広がり始める。進む先に見えるのは少し開けた場所。あそこが広間だろうか。壁際に小さな影が動くのが目に入る。初めて見るモンスター、スモールビートル。見た目は小さい甲虫だが、こういうのが意外と厄介なんだよな。外殻の硬さが嫌でも目につく。あれをどうにかしないといけないのか。
一匹が動き出した。音を立てながら近づいてくるその姿に、手汗がじっとりと滲む。動きは遅い。それでも油断するわけにはいかない。剣を構えたまま、相手を観察する。突進してくるのか、それとも何か仕掛けてくるのか。飛びかかってきたタイミングで剣を振り下ろしたが、刃が外殻を掠めただけ。硬い。これじゃ一撃で仕留めるなんて無理だ。
外殻の隙間を探さないといけない。でも、あの動きに付き合っていたらスタミナが削られるばかりだ。相手が再び突進してきたタイミングで、今度は横に回り込む。脚と胴体の接続部分、そこを狙え。剣を突き出し、手応えを感じた瞬間、スモールビートルは崩れ落ちた。
こんな戦いを繰り返さないといけないのか。これが初心者向けだなんて、誰が言ったんだろう。軽く息を整えたところで、広間の奥からもう一匹現れる。さっきより動きが速い。まだ終わりじゃないのか。
剣を構え直す。この狭い空間での戦いが、どれだけ体力を削るのか嫌でも分かってきた。だけど、進むためにはやるしかない。剣を握る手に力を込めて、二匹目に向き合う準備をする。
二匹目のスモールビートルがじわじわと距離を詰めてくる。さっきの個体より動きが鋭い。外殻が光を反射し、見えにくいのも嫌なところだ。こんな狭い広間で、この手の動きをされたら逃げる余地はない。冷や汗が額を伝う。落ち着け、さっきだって倒せたんだ。何も特別なことをする必要はない。確実に、正確に仕留めるだけだ。
スモールビートルの動きが加速した。突進してくる様子に、こちらも自然と身構える。外殻のどこかに弱点があるはずだ。冷静に、相手の動きを見極めるしかない。脚と胴体の付け根、あのわずかな隙間だ。そこを狙うんだ。突進をかわして体勢を整える。相手がもう一度動き出した瞬間、剣を振り上げ、狙いを定める。だが、この個体はさっきよりも回り込みに対応してきた。剣を弾き返され、体がよろける。
剣を持つ手に力を込め直す。次で仕留めないと危険だ。相手の動きを再び観察する。突進の勢いが速いせいで、隙を狙う余裕はほんの一瞬。だが、それを見逃してはいけない。冷静にタイミングを測る。来た。突進してきた相手に対して、今度は素早く横に回り込み、剣を突き出す。脚と胴体の接続部分を狙った一撃が成功し、スモールビートルが甲高い音を上げて崩れ落ちた。
心臓が早鐘のように鳴っている。呼吸が荒い。手に握った剣が重く感じる。それでもまだ終わりじゃない。広間の奥にもう一匹、リーダーと思しきスモールビートルがいる。その動きから、他の個体とは違う気配を感じる。じわじわと近づいてくるその姿に、冷静さを失わないよう自分を奮い立たせる。
リーダーのスモールビートルは、これまでの個体よりも大きく、外殻の光沢が一段と硬そうだ。一撃で倒すのはおそらく不可能だ。時間がかかる戦いになる。相手は動きを慎重に観察しながら、ゆっくりと距離を詰めてくる。こちらを試すような、そんな意志すら感じる。
剣を構え、相手の動きを見極める。焦るな、これまでと同じだ。弱点を探して、そこに正確に刃を届ければいい。リーダーが大きく動いた。その瞬間、こちらも即座に反応して横にかわしながら一撃を加える。だが、刃は外殻に弾かれる。硬い。これは一筋縄ではいかない。
息を整えながら、次のタイミングを待つ。リーダーの動きが次第に速くなっているのを感じる。全身が戦闘態勢に入っている。この一戦を乗り越えなければ、このダンジョンを抜けることはできない。
リーダーのスモールビートルは、静かに間合いを詰めてくる。その動きに焦りを覚えるが、頭を冷やせ、焦れば相手のペースに飲まれるだけだ。この個体の硬い外殻を突破するには、これまでのように脚や接続部分を狙うしかない。だが、リーダーは他のスモールビートルとは違い、隙を見せない。動きに無駄がない。
踏み込みを見極めながら、こちらも剣を構えてじりじりと動く。リーダーが突然、地を蹴り、一気にこちらへ突進してきた。反応する暇もない速度。咄嗟に横へ跳ぶが、肩が硬い外殻に擦れる感触がある。防具越しにも衝撃が伝わり、身体に鈍い痛みが走る。逃げ場が少ないこの広間では、完璧な回避は不可能だ。
少しずつ呼吸を整える。動き出したリーダーの一瞬の挙動を見逃すわけにはいかない。次の攻撃が来るまでに間合いを詰め、弱点を狙える位置に移動する必要がある。剣を握る手に力を込め、全身を集中させる。リーダーが再び動き出した瞬間、その脚の動きに一瞬の隙を見つけた。
すかさず踏み込んで剣を突き出す。刃がリーダーの脚付け根を捉えた感触がある。鋭い金属音と共に、リーダーがわずかに体勢を崩した。だが、倒れない。硬い外殻が衝撃を吸収しているのか、それともただの耐久力なのか。次の一撃を放つべく剣を構え直したが、リーダーの反撃が即座に襲ってくる。
顎が振り下ろされ、かろうじて防いだ剣が金属音を鳴らす。全身に響く衝撃が防具越しに伝わり、思わず後退する。何度か繰り返した攻防の末に、疲労がじわじわと蓄積されていくのを感じる。ポーションを使うべきか一瞬迷うが、ここでの判断ミスは命取りだ。呼吸を整え、リーダーの次の動きを待つ。
リーダーが再び突進してくる。その勢いを利用し、すれ違いざまに胴体の中央部分を狙う。剣がわずかに外殻を割り、その奥にある柔らかい部分を捉えた感触がある。リーダーが甲高い音を上げ、その巨体が大きく揺れる。だが、まだ倒れない。どれだけの耐久力を持っているのか。
隙を見つけるたびに刃を入れる。徐々にリーダーの動きが鈍ってきた。外殻にいくつかの傷が入り、隙間が広がっている。次の一撃で決着をつける。最後の力を振り絞り、全力で間合いを詰める。リーダーが再び突進してきた瞬間、タイミングを計って剣を振り下ろした。
刃が深々とリーダーの胴体に突き刺さる。リーダーは甲高い音を上げながら、ついにその巨体を崩れ落とした。広間に静寂が訪れる。剣を握る手が震えている。戦いが終わった。倒れたリーダーの傍らに、「硬化甲殻」が落ちている。
アイテムを慎重に回収し、剣についた汚れを拭う。これがダンジョンの現実だ。こんな戦いを繰り返していかなければならない。次の通路に進むための準備を整えながら、次の戦いに向けて自分を奮い立たせる。
◯収集アイテム
・硬化甲殻 ×2
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