第5話 人間とは不思議な生物だ
すると、ミルが奥からあるものを取り出してくる。
「はいこれ、着てみて!」
「な……なんだこれは、服ならもう着ておるぞ、それに、これは露出が激しすぎないか」
我は既に服を着ているというのに、ミルはなぜか露出の高い服を差し出してきたのだ。
「違うよグラディ、これはエプロン。妹が作った、このお店の制服だよ。服の上から着るんだ」
ほう、服の上に服を着るとはな。
我はミルに言われるがままに、エプロンとやらを身につける。
「おぉ! 似合ってるじゃん! グラディ!」
「そ、そうか?」
神界で褒められたことなどなかった故、なんだか照れくさいな。
「それじゃあ、グラディには接客をやってもらおうかな!」
「接客とは何だ?」
我が接客について問うと、ミルは部屋の扉を開け、ついてくるよう我に言った。
階段を降り、1階へと向かうと、そこには数多の武器が揃えてあった。
「ほう、ここがミルの武器屋とやらか。随分とたくさんの武器を仕入れているのだな。大したものだ」
ミルは剣を1つ取ると、我の前に持ってきて話し出す。
「これは、仕入れてるんじゃなくて、僕が造ってるんだ」
「な、なんと!? まさかミルが自分でこの量の武器を造ったというのか!?」
ミルは驚く我を見てクスッと笑った。
「そうだよ、まだ修行を初めて5年だから、クオリティは高いわけじゃないけど、それでも一つ一つ丹精込めて造ってるんだ」
むう……確かに細部まで見れば、削りが甘い部分や、軸のブレなどが窺える。
だがそれでも、これを1人でこなしたのだから、人間には意外にも力があるものなのだな。
「しかしミルよ、我は自らの力によって、あらゆる武器を生み出すことができる。一つ一つ造るのは手間がかかるであろう。我ならば、完璧なクオリティの武器をいくつでも生み出すことができるぞ。それを売りつけるのはどうだ?」
我としてはとても良い案だと思ったのだが、ミルの答えは我の思っていたものとは違っていた。
「確かに、グラディの生み出す武器はすごいよ。さっきのアインシュラークだって本物みたいだった。けどね、僕は一つ一つ愛情込めて造った武器を、みんなに使ってもらいたいんだ」
やはり人間は不思議だ。
楽をできるのに楽をしたがらないとは。
まあミルがそう言うのならば、我が強制すべきことでもない。
「それでは、先ほど出したアインシュラークは売らぬのか?」
「うん! あんなの売ってたら、街中大騒ぎになっちゃうよ。だから、後で倉庫にしまっておくよ」
なんと……我の力を存分に使って生み出した伝説の大剣は、人の手に渡ることなく、ミルの倉庫に置かれるのであった。
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