第3話 変人の部活と男の娘

稜生いつきー!部室に行こー!」


 藤堂稜生とうどういつきと友達という関係になってから一週間くらいが過ぎた。現在僕 ー 永山心羽ながやまみう毎日稜生いつきと話し、ともに行動をしたがっている、まあつまり、稜生いつきに懐いている人物だ。


 ゲームの序盤ではもう少し控えめな心羽みうだったのだが、抜け出しづらい「心羽みうルート」にするために行動を変えたのだ。ここからはゲームから外れて、比較的自由な行動が取れる。というか取らないとたぶん稜生いつきは「心羽みうルート」を選ばない。


「お、おう。行くか」


 教室から二人で出て、そのまま部室へと向かう。稜生いつきは僕を心羽みうと呼び、僕は彼を稜生いつきと呼ぶ。この一週間でだいぶ仲が良くなったのだ。


 予想通り、稜生いつきは僕のことを可愛いと思っている。大体顔を見ると分かる。暗い表情が少し明るくなるから。


 残念ながらこの永山心羽ながやまみうの内面はクズのようなひねくれた性格をしているがな。


 ガラガラ、と扉をあけ、部室に入る。


「おーっ!一週間ぶりだな、新入部員たちよ!」


 地歴部の部長、湯原優愛ゆはらゆあが出迎えてくれる。


 稜生いつきは彼女を相変わらず不審な人物と思っているようだ。だが僕がすでにゲームのストーリーから外れた行動をしているので、ゲーム通りのことを稜生いつきが考えているかは分からない。


 それに、ゲーム通りに進んだ場合の全体の内容はおおむね把握しているが、学校生活が一通り理解できるとゲームではいきなり時間が飛んだりする。しょうがないことだが、これが現実になると困ったものだ。ゲーム通りに進んだとしても今後どんな展開が来るのか正確には予想できないため、気を付ける必要がある。


 これが全て主人公である稜生いつきのラブコメを邪魔するためだと考えると、改めて自分のひねくれ度合いが分かる。


「こんにちは!部長!」


 そんな内面とは裏腹に、元気のよさそうな純粋な返事をする。


「早速だが、今日の部活は今月の学校新聞に載せる歴史コラムについてだ。さあ皆の者席につけ!過去最高の物を考えるぞ!」


 優愛ゆあの号令に、部室にいた他の二人の部員から「おー!」と歓声が上がる。僕も「おー!」と大きな声で言い、席に着く。唯一つまらなさそうにしているのは稜生いつきだ。


 ここで、地歴部の部員を振り返る。


 まず、変わった性格の部長、湯原優愛ゆはらゆあ。いつも元気で少しお調子者。だが、人への気遣いなどができ、ゲームで人気のあった人物でもある。しかし「優愛ゆあルート」を切り開けるのは主人公が一年生の間のみで、そのチャンスを逃すと三年生の卒業により交流ができなくなる。


 次に、二年の先輩:日比谷ひびや三崎みさきだ。基本おとなしいが、恐ろしいほどの歴史オタクで歴史の話になると止まらなくなる。眼鏡をかけた髪の長い美少女・・・とまではいかないが、十分可愛いと言えるだろう。なお、「三崎みさきルート」は存在しないので、特に危険視する必要は無い。だがそれも、ゲームでの話だ。僕が変わった行動をとることにより、存在しなかったルートができる可能性がある。よって油断は禁物だ。


 最後に、もう一人の二年の先輩:青山あおやま鈴斗りんと。イケメンで、クールな性格を演出している。簡単に言うとカッコつけてる(だが顔は確かにそこそこ良い)。男なので危険性は皆無。


 となれば、現在警戒すべき人物は湯原優愛ゆはらゆあである。無論、そこまで入りやすいルートじゃないからあまり気にしなくて良いが。


 問題は今後部員として入ってくる人物たちだ。入部を阻止したりできないだろうか。できないだろうな。下手にすると稜生いつきに危険視されたりするかもしれない。


 今考えてもしょうがないので、部活に集中しよう。


「何か案はあるか?」


 黒板の前に立った優愛ゆあが聞く。


 部室には人数分の椅子と、長机が並べられている。教室の前側しか使っていないのだ。そして僕はもちろん稜生いつきの隣(窓側)に座っていて、廊下側には三崎みさき鈴斗りんとが座っている。


 三崎みさきが手を挙げる。


三崎みさきちゃん、どうぞ!」


 三崎みさきは熱心に語り始めた。


「ペロポネソス戦争についてはどうでしょうか?特にアンフィポリスの戦いのところに注目して ー」


 優愛ゆあはどう考えても長い話になりそうだった三崎みさきを止めた。


「えーっと、もう少しみんなが分かる話題にすればどうだ?」


 そこで鈴斗りんとが声をあげる。


「いっそ、歴史から外れて世の中の真理について書いたら ー」


「歴史コラムに歴史を書かなくてどうする」


 一瞬にして案が消された。


 疲れた優愛ゆあは、期待するような目でこっちを見てきた。


心羽みうちゃん、なんかいい案は?」


「え、えーと?稜生いつき、なんか良いアイデアあるかな?」


 稜生いつきの方を向く。こういう時は、困った顔で稜生いつきを頼ることが大事だ。なんとなく好感度が上がる気がする。


「俺え?そうだな・・・」


 稜生いつきは考える。本来、人の為にこんなことをしない彼であるが、僕のためだからしてくれる。心羽みうの可愛さは万能だ。


「江戸幕府の細かい政治システムとかか?気になってる奴もいるだろ、たぶん」


 ふと思いついたのか、稜生いつきはそう提案する。


「おっ、それいいな!」


 優愛ゆあは黒板に綺麗な字で「江戸幕府 政治」と書く。


「反対する者はいるか?」


 彼女の声に三崎みさき鈴斗りんとが手をあげる。


「そんなもの誰でも知っています。やはりペロポネソス戦争について ー」


「最初、新たな挑戦には皆反対する。しかし ー」


「黙れ」


 優愛ゆあの一言に二人は静まりかえる。


三崎みさきちゃん、いつも注意してることだが、何かを書くときは読者の興味を集めることが大切だ。あまり知られていないものについて書くと、失敗する可能性も高い。第一、ペロポネソス戦争は古代の話過ぎてあまり文献が残っていない。そして鈴斗りんと君の案はまず場違いだ」


「はい・・・」


 毎月こんなことをやっているのだろうか、この部活は。ゲームでは2,3回しか無いイベントなのだが、それはあくまでもゲームの尺の都合上。つまり実際は毎月あるということだ。


 めんどくさ。


 それはさておき、コラムのテーマが決まったところで今日は解散だ。家で各自が情報を集め、次の金曜日に内容を作成する。なんとも緩い部活だ。


「よし、じゃあ今日は解散だー!ご苦労であった!」


 優愛ゆあ部長は一瞬で出て行った。


 残りの先輩二人は、それぞれの行動をとる。三崎みさきは”東ローマ帝国の滅亡”という辞書級の太さの本を取り出して読み始め、鈴斗りんとはノートパソコンを開き、”多世界存在説”という謎の論文?を書き出した。


「じゃあ稜生いつき、一緒に帰ろ!」


「そうだな。さっさと帰って、勉強でもするか」


 藤堂稜生とうどういつきは暗く、内気な性格だが、割とまともな方向に進んでいる。ぼっちで過ごす時間を、学習時間に変えているのだ。


稜生いつきって偉いなあー。僕なんてまだ何もしてないよ」


「やることが無くてやっているだけだ。羨ましいことなんて一つもないぞ」

 

 鞄を背負い、二人並んで部室を出る。一部の人には、カップルのように見えるだろう。


 稜生いつきも、時々それに気づく。永山心羽ながやまみうという可愛さの塊が隣にいることに、照れている感じだ。


 ずっと思っていることだが、男でこの可愛さは反則だろ。


 さて、明日は土曜日。つまり休日。休日と言えばイベントチャンスばかりだ!特に、最初の部活動が終わった後の休日では、ゲームでのメインヒロインが登場する。


 もちろん、ラブコメ的な出会いは、全力阻止だ。


 こんなことを考えながら、表の顔には笑みを浮かべ、稜生いつきと共に帰り道を歩いていった。

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ラブコメの男の娘枠に転生したので、原作知識で主人公を好き放題に攻略してみる 猫だよ @nekodayodayo

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