第2話 可愛さはすべてを解決する

 ガラガラ、と部室の扉を開け、入ってくる一人の男 ー 藤堂稜生とうどういつき。それを見た僕 ー 永山心羽ながやまみう


「あれ?藤堂君もこの部に入部するの?」


 と稜生いつきに聞く。中身の僕はまったくそんなこと疑問に思っていないのだがな。ここは”地歴部”の部室だ。全国的にそこそこ珍しい部活だが、別に無いわけじゃない。基本的には歴史オタクが集まる場所。


 それはともかく、なぜこんな状況になったのかを説明しよう。答えは簡単:ゲーム通りに数日過ごしたからだ。


 この高校は部活動必須だ。よってどこかへの入部はしなければならない。ゲーム内では、稜生いつきは最も活動が無さそうな地歴部に入部する。なにせ、この部活の売り文句は「ほぼ金曜日だけの活動!」なのだから。


 しかし、ぼっちな彼は知らなかった。この高校のこの部活は、変わり者しかいないのだ。そして、いろいろな経験を通し、恋愛も発展していくわけだが・・・誰がそんなこと許すか。絶対に心羽みうルート以外にコイツを入れるつもりはない。


 僕がいることに気付き、驚く稜生いつき


「永山?」


「あっ、名前覚えててくれたんだ!うれしい!」


 満面の笑みで返す。


「お―っ!新しい入部希望者かい!?」


 そこに、部長の湯原優愛ゆはらゆあが現れた。ゲームでは、この人物のルートも存在する。つまり僕の敵だ。


「まあ、そんなところです」


「いやあー、うれしいねえー!この部活、部員がちょー不足しててねー」


 普通に返す稜生いつきだが、脳内では


”そうそう、こういうやつが一番信用できねえ。経験から語ると、いじめの存在を完全に無視するタイプの人間だ”


 と考えている。今後、その考え方は変わっていくわけだが、恋愛だけは絶対にさせねえよ。


「じゃ、そういう事で」


 入部届を部長に渡し、部室の端の窓側 ー 簡単に言うと「一人にしておいてくれ」という雰囲気の場所 ー の席に座る。


 僕と全く会話もせずに、である。まあゲームでもそうだからそりゃそうなんだが。


 ということで僕はまっすぐに稜生いつきの席へ向かう。


「藤堂君も地歴部に入るんだね!最初、一年が僕しかいなくて焦ったよー」


 そして稜生いつきは面倒そうに、


「なんで俺に話しかけてくるんだ。前助けてもらったのは分かるし、お前が男だということも分かるが、それだからと言って俺は人と友好関係を結ぶつもりは無い。他の部員と仲良くしとけ」


 と言う。


「え、でも・・・さっき言った通り、一年の部員って僕と藤堂君しかいないし・・・」


 と困った感じで返すと、


「そうか。じゃあクラスの友達と仲良くしとけ」


 と無関心な反応をされる。さて、ここからが最重要ポイントの一つだ。


「言いづらいんだけど、僕、男なのに女の子に見えるからあまり同性となじめないだ・・・だから・・・」


「同じくぼっちそうに見える俺と仲良くなろうと?ふざけてるのか、お前」


 このセリフを言われる立場になると、なんか腹立つな。でも我慢だ我慢。


「そ、そうじゃないよ!ただ・・・前、体育の時に普通に僕と話してくれて、うれしかった・・・」


 最後の方は少し恥ずかしそうに言う。可愛さの演出である。


 そして、体育の話は、確か二日前の出来事だ。


 内容はこう:二人ペアで体育をやれと言われ、心羽みう(僕)が困っていたところ、偶然稜生いつきを見つけてペアを組んだ。そして稜生いつきが「お前」とあまり気を遣わずにしゃべってくれて心羽みうはうれしかった、というものだ。


 余談だが、あまりそこの立ち回りは難しくなかった。


「あれは・・・普通に俺の性格があんな感じなだけだ。別にお前を友達として扱ったわけじゃない。だからさっさと友達でも作れ」


 少し顔を赤らめながら、つまり心羽みうを可愛いと思いながら、稜生いつきは話を切り上げようとする。


「その作る友達って藤堂君じゃダメなの?」


「だから、俺は人と友好関係を結ぶつもりは・・・」


 少し気持ちの揺らいだ稜生いつきに、最後の一撃:可愛い顔。


「仕方ねえな。友達になってやるよ」


「やったー!ありがとう!」


 やはり可愛さはすべてを解決する。知ってあんまり嬉しい事じゃないと思うが。

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