第6話 初戦闘
目の前で暴行を受けている女性の姿が、胸を締め付ける。それでも、タカシは深く頭の中で詫びた。
「……ごめん。でも、これが最も確実な方法なんだ。」
この状況において、自分の選択が彼女にさらなる苦痛を与えると理解している。それでも、失敗するわけにはいかない。確実に一撃で1人目を仕留めることが、彼女を救うための最善策だと信じた。
タカシは炎の力(ワンドのエース)を一瞬考えたが、すぐにそれを後の奇策として取っておくことにした。炎を使えば、相手を一時的に混乱させられる可能性がある。しかし、力を温存し、まず短剣で一人目を確実に仕留めることが優先だ。
「最初の一撃を決める。その後は炎で動きを封じる。」
タカシは短剣を手にし、静かに1人目の男の後ろへと忍び寄った。その男は女性の暴行を行う相手を見守るだけで、完全に無防備な状態だった。
一撃で仕留めるために、首筋を狙う。
音を立てないよう、短剣の動きは一切無駄を省く。
短剣を構える手に力を込めながら、タカシは自分自身に問いかける。
「俺はこれをやり遂げる覚悟があるのか?」
その問いへの答えは、女性を救うための行動そのものだった。迷いは消え、全身に冷静な集中が宿る。
タカシは短剣をしっかりと握り、1人目の男の後ろに静かに忍び寄った。男は完全に気を抜いており、女性の暴行を見守るだけで自分が狙われていることに気づいていない。
「ここで仕留める……!」
タカシは深く息を吸い、一気に短剣を振り下ろした。刃が男の首筋に突き刺さると、男は短い悲鳴すら上げられず、その場に崩れ落ちた。
「……よし。」
1人目を確実に仕留めた安堵感が一瞬広がるが、次の瞬間、女性を襲っていた2人目の男がこちらを振り返った。
2人目の男は、突然の物音と仲間が倒れる音に驚き、咄嗟に女性から離れて剣を掴むと、タカシの方に向かって突進してきた。
「貴様!何者だ!」
男の目は怒りと動揺が入り混じり、その剣先は明らかに殺意を帯びている。タカシは瞬時に構えを取りながら状況を整理した。
タカシは自分の短剣を握りしめ、急速に接近する男に目を据えた。武術の経験が生きる状況ではあるが、相手は剣を持っており、短剣だけではリーチの差が圧倒的だった。
「このままでは分が悪い……!」
タカシは男の突進を見据えながら、咄嗟にワンドのエースの力を発動した。
「炎の力……これで足を止める!」
手のひらに力を込めると、想像以上に大きな火球が生み出された。その熱量と輝きに驚きながらも、タカシは迷いなく火球を男の正面に向かって放った。
「うおおっ!」
火球は男の身体に直撃し、爆発音とともに彼を吹き飛ばした。剣は地面に叩きつけられ、男の衣服は焦げ、激しい混乱の中で声を上げながら地面を転がる。
しかし、その直後、タカシは自分の頭に激しい痛みが襲いかかるのを感じた。
「……くそ、力を使いすぎたか……!」
目の奥から広がるような鈍い痛みに一瞬膝をつきそうになるが、歯を食いしばり耐える。ここで立ち止まれば、男が体勢を立て直して反撃してくることは明白だった。
「今だ……終わらせる!」
タカシは体を無理に動かしながら、倒れた男の足元に素早く接近した。
地面に転がる男は混乱しながらも、必死に起き上がろうとしていた。しかし、その動きは明らかに鈍く、全身に火球の衝撃が残っている。
タカシは迷わず短剣を握り、男の腹部に突き刺した。
「……ぐっ!」
男は短い声を上げ、力を失って再び地面に崩れ落ちた。動きが完全に止まるのを確認すると、タカシは短剣を抜き、しばらくその場に立ち尽くした。
二人の男を倒し、周囲は再び静寂に包まれる。しかし、身体中の疲労と頭痛がタカシの身体を蝕む。
「……これで……終わったのか?」
息を整えながら、自分がやり遂げたことを実感する。短剣を握る手はまだ震えており、全身から汗が噴き出している。
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