第4話 ペンタクルのエース

焼き上がった鳥肉を食べ終えたタカシだったが、ふと急激な疲労感に襲われた。頭がぼんやりとし、視界が揺れるような感覚が広がる。


「……まずい、力を使いすぎたか。」


手にした短剣が重く感じられ、足元に力が入らない。不安が込み上げる中、タカシは慌ててスートの力を解除することを決断した。


「これ以上は危険だ……。力を使うのは考えなしじゃダメだな。」


カードのイメージを頭から追い払い、身体にかかった負担が少しずつ和らいでいく感覚を得る。だが、精神的な疲労は簡単には拭えなかった。


日は完全に沈み、周囲が闇に包まれる前に、タカシはまず暖かく休むための準備を始める。川沿いにはいくつか乾燥した木の枝が散らばっている。それらを拾い集め、簡易的な焚き火を作ることにした。


「火があれば少しは安心できる。」


枝を組み合わせ、ワンドのエースを最小限に使って火を起こす。小さな炎がパチパチと音を立て、周囲を温かな光で照らした。


タカシは焚き火の光を見つめながら、ふと孤独を感じた。


「……こんな場所で、一人で夜を過ごすなんて思いもしなかった。」


現実世界では、家や寝床が当たり前にあった。暖かい布団で眠り、周囲には人の声があった。それが今、この異世界では全てが奪われている。


「俺は……この世界でやっていけるのか?」


不安は尽きないが、答えは出ない。タカシは頭を振り、目の前の現実に集中することを決めた。


「考えすぎるな。まずは今夜を生き延びることだ。」


タカシは、焚き火の揺らめく光を見つめながら、ふとペンタクルのエースの力を思い出した。


「防御魔術……結界のようなものが張れないだろうか。」


カードに意識を向け、力を試そうとする。すると、手のひらにわずかな暖かさが広がり、薄い膜のようなものが自分を包む感覚がした。


タカシはその力を集中させ、結界を形成しようと試みた。だが、結界は非常に弱く、小動物や小型の捕食者には通じても、大型の獣には歯が立たないことが直感的に分かった。


「こんな中途半端な防御じゃ、むしろ無駄に力を使うだけかもしれない……。」


タカシは迷った末、結界を張ることを諦める。


「無駄に力を使って消耗するよりも、体力を温存した方がいい。」


そう自分に言い聞かせ、焚き火のそばで身体を丸めて横になる。短剣を握りしめ、焚き火の明かりが届く範囲がせめてもの安心感だった。



川のせせらぎと、焚き火の弾ける音だけが響く中、タカシは薄い眠りに落ちていく。


「明日がどんな一日になるかも分からない。それでも、俺は生きなきゃいけないんだ。」


異世界での初めての夜。心に渦巻く不安と疲労に抗いながら、タカシは静かな夜を過ごす準備を整えた。

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