第3話 ソードのエース
タカシはふと、手元の短剣に目をやった。そして、脳裏にソードのエースの力を思い浮かべる。
「武器に力を宿す……剣を握った瞬間に感じた高揚感は、これだったのか。」
短剣を軽く握り直すと、驚くほど自然に手に馴染む感覚が広がった。さらに、視界が鮮明になり、動く小さな影の軌跡までもが捉えられる。
「感覚が……研ぎ澄まされている。これなら!」
タカシは短剣を軽く振ってみた。その動きはこれまでの武術の経験とは異なり、鋭さと力強さが増している。さらに、短剣を投げるという新しい発想が自然と頭に浮かんだ。
タカシは周囲を見渡し、小動物たちを目で追った。しかし、彼らは遠巻きにこちらを観察しながら、すぐには射程内に入らない。短剣の射程を考えれば、狙いを変えるべきだと直感した。
川の中を改めて観察すると、川面がわずかに波立つのを見つけた。魚影が見え隠れしている。さらに上空を見上げれば、小さな鳥が川沿いを飛び回っているのが目に入った。
「魚か鳥か……どちらが現実的だ?」
タカシは目を細めながら、それぞれの選択肢を考え始める。
「俺の武術の経験がここで試されている。失敗すれば、無駄にエネルギーを消耗するだけだ……慎重に、一撃で決めなければ。」
異世界という異常な状況下での初めての狩猟。目標を定める緊張感がタカシの心を引き締めた。
タカシは川沿いを飛ぶ小鳥たちに目を向けた。その動きは不規則で素早いが、ソードのエースの力を宿した短剣があれば狙えると確信した。
短剣を構え、自然に呼吸を整える。目の前の時間がスローモーションのように流れる感覚が広がり、一瞬で最適なタイミングを見極めることができた。
「行け……!」
短剣を投げると、空を切るように鋭く飛び、惜しくも初回は目標を外した。しかし、驚いたことに、短剣は奇妙な軌道を描きながらタカシの手元に戻ってきた。
「これもスートの力……まさか戻ってくるとは。」
手元に戻った短剣を握り直し、再び挑戦する。感覚を研ぎ澄まし、鳥の飛行パターンを見極めた。数回の試行の末、ついに短剣が目標に命中した。
「やった……!」
タカシは地面に落ちた小さな鳥を拾い上げた。思わず満足感がこみ上げたが、同時に新たな課題が浮かぶ。
調理方法の問題
捕獲した鳥を手にしたタカシは、自問した。
「どうやってこれを食べる?」
調理の経験などほとんどないタカシにとって、捕らえた鳥を食料として活用する具体的な方法は未知の領域だった。
まずは羽をむしり始めるが、どこまで剥くべきか分からない。肉に達するまで手間がかかり、慣れない作業が焦りを生む。
「次は火だ……炎の力なら調理もできるはず。」
ワンドのエースを思い出し、火を起こすことを試みる。先ほどの小さな火球を再現するように意識を集中させ、捕獲した鳥の近くで炎を生成した。しかし、火加減の調整が難しく、鳥の肉を焦がしてしまう危険性があった。
捕らえた鳥を前に、タカシは荒野での生存に対する現実を痛感した。武術や理論的な思考が通用する部分と、実践的な知識が不足している部分。そのギャップに初めて真正面から向き合うことになった。
「武術じゃ解決できない場面も多い……俺はこの世界に慣れていかないと、生き残れないんだ。」
タカシは、これまでの生活で得たわずかな知識を頼りに、鳥の解体に挑むことを決めた。
「魚をさばくように考えればいい。まずは腹を開いて内臓を取り出す……。」
解体の手順
タカシは短剣を慎重に握り、鳥の腹部に刃を入れる。柔らかい皮膚を裂きながら、そっと中の内臓を取り出す。
「これが……肝臓、心臓……それから腸か。」
取り出した内臓は、川の近くに掘った小さな穴に埋めることにした。異臭や腐敗を防ぐためだ。次に首を短剣で落とし、皮を剥いでいく作業に取り掛かる。
皮を剥ぐ作業は慣れていないため手間取ったが、焦らず一つずつ進めていった。やがて、鳥の肉が露わになる。
タカシは息を整えながら、ふと手元の鳥を見つめる。
「……これで何とか食べられる形にはなったか。」
解体を終えたタカシは、次に調理に取り掛かる。今度はワンドのエースを用い、火を起こして加熱を行うことにした。
小さな石を組み合わせて簡易的な炉を作り、その上に鳥の肉を乗せる。火加減を調整するため、炎の出力を意識的に弱めた。
「焦らないでじっくり焼くんだ……。」
ゆっくりと火を通していくと、香ばしい匂いが立ち上がり始めた。タカシの空腹感はさらに強まり、思わず唾を飲み込む。
やがて鳥肉はきつね色に焼き上がり、食べられる状態になった。
焼き上がった鳥肉を手に取り、タカシは慎重に口に運ぶ。少し固いが、焦げ目の香りと肉の味がしっかりしている。
「……うまい。」
それは異世界に来てから初めての満足感だった。命の重みを噛みしめながら、タカシはゆっくりと肉を食べ進めた。
食事を終え、川のそばに腰を下ろす。タカシは自分がこの世界に生きているという現実を改めて受け入れる。
「自分で狩って、解体して、火を起こして……こんなこと、現実の生活では考えもしなかったな。」
異世界での生活は過酷だが、それはタカシの中に新たな感覚を芽生えさせていた。生きるための本能と、命を繋ぐという原始的な喜びだ。
「これが始まりだ……この世界で生き抜く力を、少しずつ手に入れるしかない。」
そう決意を新たにしたタカシは、明日の旅路を思い描きながら、少しずつ眠気に誘われていった。
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