第2話 ワンドのエース
異世界の目覚め
次に目を開けたとき、タカシは荒野の中に立っていた。周囲には見渡す限りの荒涼とした大地が広がり、空はどこか薄暗い赤みを帯びている。草木はほとんど枯れており、遠くの山々は不吉な雰囲気を漂わせている。
冷たい風が吹き付け、背中にぞっとする感覚が走る。この場所が現実であることを、身体全体が訴えている。
タカシは足元に目をやると、地図と一本の短剣が置かれていることに気づいた。それを拾い上げると、ふと自分の心の中に湧き上がる不安に気付く。
「一体どうするんだ?何も分からないのに……」
しかし、その思いを振り払うように拳を強く握りしめる。
「考えても仕方ない。俺にはやるべきことがある。」
こうして、26歳の元サラリーマンの孤独な旅が始まった。
地図を広げると、簡素な線で描かれた地形図が目に飛び込んでくる。現在地には「転移地点」と記され、最寄りの村までの道のりは遥かに長い。距離の概念は曖昧だが、少なくとも数日は歩かねばならないことが直感的に分かる。
風が頬を撫でる。乾いた空気が喉をひりつかせ、足取りは自然と重くなる。
「まずは水を見つけないと……」
地図には近くに川が流れていることが示されていた。目的地は南だが、川はやや東側にある。水源があれば、体力を回復し、状況を整理する余裕も得られるかもしれない。
短剣を腰に収め、歩き始める。周囲は荒涼とした草原が広がり、時折、遠くで鳥らしき影が飛ぶのが見える。しかし、その静寂はどこか不気味だ。
日が昇り、頭上の太陽が容赦なく照りつける。空気は乾燥しており、喉の渇きがひどくなっていく。食料もない。何かを口に入れることができるものを探しながら歩くが、草木はほとんど枯れ、果実の影もない。
「……くそ、こんなに何もないのかよ。」
自分の不運を呪いたくなるが、それすら無駄だと分かっている。集中しないと生き残れない。それだけはこの地の空気から察することができた。
夕方、薄暗くなり始めた頃、ついに川の音が微かに耳に届く。乾いた地面が徐々に湿り気を帯び、草も緑がかった色に変わってきた。
川岸にたどり着くと、タカシは膝をつき、水をすくい上げる。冷たく清らかな感触が手に広がり、ためらいなく喉を潤す。
「……生き返る……。」
久しぶりに味わう安堵感に、身体全体が力を取り戻す。乾ききった身体が水分を吸収する感覚は、奇妙なほど鮮明だった。
だが、問題はまだ解決していない。水を得ても、空腹は容赦なくタカシを苛む。周囲を見渡すと、川沿いの草むらの中に、何か小動物の足跡が見える。
「……ここで何とかしないと。」
武術の経験が豊富なタカシだが、生身で狩りをするのは初めてだ。短剣を手に取り、足音を殺して草むらを歩き出す。
タカシは川沿いの草むらで足跡を確認し、短剣を握りしめた。しかし、ふと手元のカードを思い出す。
「ワンドのエース……炎の力を呼び起こす、か。」
試しにカードを手にし、意識を集中させると、指先に熱が集まる感覚が広がった。その感覚を頼りに草むらの一部へ向けて力を解放すると、小さな火球が生まれ、一瞬で草が燃え上がる。
「よし……これなら!」
だが、燃え上がる火を見た小動物たちは、まるで見透かしたように一瞬で四方八方に散り、姿を消してしまった。
遠巻きにいる小動物たちがこちらを警戒するように距離を取りながら、視線だけを向けている。その光景を見て、タカシは深いため息をついた。
草むらの中に腰を下ろし、タカシは改めて状況を整理し始めた。
「動物たちは敏感だな……炎が届く範囲には近づかない。となると、この力をどう使えばいいんだ?」
考えながら、目を閉じて脳内で可能な手段を洗い出す。
心の中で浮かぶ選択肢
・簡易的な罠を草むらに仕掛け、動物たちが近づくタイミングを待つ。
・ワンドの力を使い、動物たちの逃げ場を徐々に狭めるよう仕向ける。
・遠巻きにいる動物を無視し、川での魚捕りに切り替える
タカシは冷静さを保とうとするが、空腹が徐々に思考を鈍らせているのを感じた。
「食べられるものを得ないと、この先の旅が危うい……でも、力を振り回すだけじゃダメだ。」
普段の自分なら、もっと冷静に状況を分析できるはずだ。しかし、異世界での孤独な時間と飢えが、じわじわと心を追い詰めていた。
「……焦るな。武術でもそうだった。まずは状況を俯瞰して、冷静に一手を打つんだ。」
そう自分に言い聞かせながら、タカシは作戦を練るためにもう一度周囲を見回した。
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