第7話 熊鍋
ワインを見つけた後日、俺たちは山を降りようとしていたのだが、また別の問題が。
それは、ワインの運送方法だ。
「僕の異空間に入れて運ぼうか?」
「樽一つ20kgくらいだろ。二つしか持っていけねえって売るにしては少なくねえか?」
「じゃあ……荷車とか」
「この山道を荷車で運ぶのはちょっとな。たぶん落とすぞ」
「うーん……」
せっかく売れそうものを見つけたってのに、困ったもんだ。
「はぁ……せっかく売れそうだったのになぁ」
「まあまあ。とりあえずやれることからやろうよ。こっちの小屋は倉庫にしてさ、住めそうな洞窟探さない?」
うじうじしてても仕方がない、か。
「そうだな。そうしてみるか」
早速、作業に取り掛かろうと森の方角に向かうが、時雨が着いて来ない。
その場でジーッと俺の後ろ姿を見ている。
「……なんだよ」
「いや。前から思ってたけど、アッシュって僕の魔術に頼ろうとしないよね」
「あー……俺、魔術ってよくわかってねえんだよ。戦い以外でも使えるのか?」
「使い方次第だと思うよ。僕の場合、簡単な索敵くらいならできるけど、使う?」
魔術に頼れば、あっという間に洞窟を見つけることが出来るのか。
労力も減るし、かなり便利だが……
「使わなくていいよ。時間は山ほどあるんだし、自分でやれることを魔術に頼ってちゃあつまんねえだろ」
「ふふ。そうだね。一緒に頑張ろうか」
◇ ◇ ◇
雨風を凌いだり、冬を越すための臨時の寝床として使う洞窟探しには、そこそこの時間がかかってしまったが何とか見つかった。
小屋から片道1時間。
元々はレグルスベアという獰猛な熊が寝床にいしていた場所を奪う形になった。
自然界は弱肉強食。
最初に襲って来たのは向こうからだし、まあこれも仕方ないことだ。
てな訳で、せっかく肉が手に入ったのだからと、俺たちは今、熊鍋を作っている。
「その辺の野草と畑で収穫したヤツネイモ。それに熊肉の鍋か」
「レグルスベアの肉は硬いから、じっくり煮込まないとね。全部は食べられないし、残りは干し肉にする?」
「干し肉かあ……」
いや。長期保存ができない以上、食料問題的にも干すのは仕方ねえことだ。
仕方ねえんだが……ぶっちゃけ飽きる。
「なんかこう……新鮮な肉をガツガツ食いてえんだよな」
「僕の異空間で保存しておけばいいんだよ」
「そりゃそうだけど、ずっと頼りっぱなしって訳にもいかねえだろ。魔術以外の方法を考えるんだよ」
乾燥・燻製・塩漬け・油漬け。
この辺りが一般的に生肉を長期保存する時に使われる代表的な方法だ。
どっかの国では、凍らせることで保存期間を伸ばしてるなんて話も聞いたが、それを俺たちがやれるかと言われればたぶん無理だ。
「うーん……」
「専門家じゃないし難しいよね。とりあえず、食べれる時にガッツリといこうよ。はい。そろそろいいんじゃない?」
時雨が鍋をよそい、手渡して来る。
ただ具材をぶち込んで、水で煮込み塩で軽く味を整えただけの料理。
軽く2時間は煮込んだ熊肉は、柔らかいとまではいかずとも、程よい噛みごたえ。
これぞ肉を食ってるって感じがする。
「美味え!」
「ふふ。普通に焼いてでも食べてみよっか。それとお酒」
「いいな、それ。うっし。今日も飲むぞー!」
「おー!」
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