第5話 課題

 作物を育てることに心血を注いでいた俺たちだったが、実はまだ、手を付けなきゃいけない課題が結構あったりする。


 家具や衣類、狩猟用の弓矢に、罠を作るロープも欲しいし、それに冬を乗り切る防寒対策も必要だ。

 が、そんなのを置いといて、最もやらなければいけないこと。

 それは——小屋の修復。



 ポツポツと空から雨が降り注ぐ。

 忘れちゃいけねえのは、俺たちはあくまで壊れた小屋に住んでいたということだ。

 何十年も昔に放棄された小さな小屋。

 屋根なんてボロボロで、雨風を凌げる環境とはいえない。


「雨、だね」

「屋根、直しとくんだったな」

「でも工具がないからねえ。やっぱり一度、街に買い出しにでも行く?」

「ん〜〜〜」


 ハンマーに、釘。

 これがないと修復ができないのは事実。

 それに他にも色々な物が街には揃っている。

 揃ってはいるんだが……


「なあ、時雨」

「なーに?」

「お前、金持ってるか?」


 そう。俺は金を持ってねえ。

 参加した戦争で大金が手に入ると思って、今まで集めた金は全部使っちまった。

 あぁ……俺のバカ野郎。

 なんでこうも、計画性ってもんがねえんだよ。


 ということで、頼みの綱は時雨だけ。

 時雨は俺の質問に、ニッコリと笑顔で答えた。


「ないよ」




 ◇ ◇ ◇



「俺って王様になっても金持ってねえんだな」

「『いつでも入ってくるから全部使っちまえ!』ってタイプだね」

「でもさあ、普通多少は持たせるよな」

「まあ過去に何を持ち込めるかはわからなかったから。『異空間ポケット』にも容量があったしね。食料を優先したんだよ」


 時雨の言う『異空間ポケット』ってのは、何もない空間からパンとか干し肉を取り出してたアレだ。

 時を操る時雨の魔術の一つで、時の流れを止めた自分だけの空間らしい。

 容量はだいたい時雨の体重と同じくらいで、現在は約40kgまで物を入れられる。

 生肉の保存とかにも使えて、かなり便利な魔術だ。

 まあそれはともかく、今一番の問題は『金』。


「はぁ……もう一度傭兵でもやるかぁ」

「絶対にダメ!」

「なんでだよ」

「僕はアッシュに平穏な暮らしをして欲しく来たんだ! なんでわざわざ自分から戦地に向かうの!」

「ちょろっとやるだけだよ。ある程度稼いだら辞めるって」

「ぜーーーーーっっったいにダメ!!!! そもそもアッシュ、自分が弱いことに気づいてないでしょ」

「なんだと! 自分で言うのもなんだけどなあ、俺は傭兵の中じゃ強え方なんだぞ! 魔術師とか魔剣士が相手じゃねえ限り負けねえよ!」


 これでも10の頃から傭兵として戦場を生き抜いて来たベテランだ。

 弱いなんて事は絶対にねえ!


「ほら。魔術師とか魔剣士相手には負けるんじゃん!」

「それ以外には勝てるっつーの!」

「魔術師が敵にいたらどうするのさ」

「逃げる」

「逃げられなかったら?」

「………頑張って逃げる」

「無理だね。君は逃げ切れなかったら、間違いなく僕を使うよ。死ぬくらいなら王様にでもなった方がマシって君は考えるでしょ?」

「………まあな」


 誰だって、死ぬのと比べりゃ多少の代償には目を瞑るだろ。


「僕だってそうさ。君が死ぬくらいなら僕は君を助ける。でも、それをやると君は夢を叶えられない。だから傭兵は絶対にダメ」

「でもよぉ、金がねえと……」

「お金がなくても生きてはいけるよ。だからさ、2人で頑張ってみようよ」


 うーん……何がなんでも、俺を傭兵には戻したくないって感じだな。

 まあ俺も、せっかく手にしたこの状況を捨てたくはないし、洞窟でも見つければ雨風を凌ぐことは出来る。

 せっかくここまで思ってくれてるんだ。

 2人で考えながら過ごしてみるのもいいか。


「あー……わかったよ。傭兵には戻らない。それでいいか?」

「うん!」

「でも金が全くねえってのはなぁ。何か別の方法で……」


 傭兵以外に俺でもやれることといえば、まあ何か物を売るくらいだが……


「ちょっと売れそうな物がないか、小屋の中漁ってみるか」

「いいね。危険なことじゃないなら、僕はなんでも手伝うよ」

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