第3話「救いの手(2)」

街の様子がおかしい。


パトカーのサイレンが鳴っている方へ夢中で走った。


この8年で、世界は再構築した。しかしまだまだ不完全だ。


このエリアを守るのにロードリーダーだけでは足りない。……たった2人のヒーローでは足りないのだ。


俺が"救世主"として立ち上がる。


現場では既にパトカーが何台も止まっており、KEEP OUTの文字が至る所に貼り巡らされていた。


「遅かったか……?」


その立ち入り禁止のコーンを乗り越え、爆発したと見られる建物の中に入ろうとしたが、当たり前のように警官に止められた。


「ちょっと君! 文字が読めないのか?」


「俺はSaviorだ」


キメ顔でそう言ったが、警官は眉をしかめ、無理やりピエトロを外に押し返した。


「何があったかは教えてくれよ」


「アーバンゲリラだ」


「昨日現れたばかりだろ? 働きすぎじゃねえか?」


「知らん。本人に訊け」


「目的は?」


「分からんから大人たちが困っているんだよ。動悸が分かればこっちのもんなんだがな」


「あぁ、そう……」


その時、背後から光が突如として差してきた。


なにかと思って振り向こうとしたが、ピエトロが後ろに振り向く前に猛烈な爆発音が響き、無数の瓦礫が吹き飛んできた。


「うァッ!!!!」


「危ないッ!!!」


警官はピエトロに覆いかぶさったが、それを押しのけ爆発音がした方に彼は走っていった。


「君!!」


「悪いなオッサン!! アンタもヒーローみたいだが、俺は救世主だ」


爆発音の大きさと飛んできた瓦礫から予想したよりも爆発地点は遠く、すぐにはたどり着くことが出来ないようであった。


携帯を開くとエリアのニュースが速報として入っている。やはりここから500メートルは離れた場所が爆発したようだ。


走れば数分で着く。深く考えずにピエトロは煙の方に走った。



───ピエトロは足が速い。サイレンの音が近づくよりも前に爆発地点に到着した。


煙は目にしみ、喉を突き刺すように漂っている。だがそんなことを気にしている暇などない。街が、エリアが、世界を救わなくてはならないのだから。


ピエトロや警察を除き一般の人間は既に殆ど逃げていた。下半身が焼けただれうずくまっている人の姿や、泣き叫んでいる子供の姿が見えた。


爆発したビルからは警報システムが鳴り続け、それがより不安を煽っているようだった。


ピエトロはしゃがみこみ、うずくまっている人に手を差し伸べた。


「あ……あ……」


手を強く掴み、そのまま彼をおぶった。彼の小さな呼吸が肩にあたる。生暖かい。


「安心しろ。俺は救世主だ。君は救われた……」


返事は無いが、ピエトロは病院に向かって歩いた。


「アーバンゲリラを倒すことが最終的な俺の目標だが、それよりも助けなくてはならない人が最優先だ。救世主の最低条件だ」


そう言いながら、ピエトロは肩にかかる風が無になったことに気づいていた。


一瞬上を向き、小鼻に触った。


そしておぶっていた男を降ろし、彼の胸に耳をつけた。鼓動はない。


ピエトロは地面を殴り、声にならない奇声を発した。


「クソッ!!! アーバンゲリラ……!!!」


その時、人影が目の前に現れた。炎上するビルの光を背後から何者かが遮っている。


「アーバンゲリラか?」


ピエトロは振り向かずに叫んだ。返事は無いが、今までに感じたことがないほど、背後から威圧を感じた。


何者かが歩み寄ってくる。1歩進む度にスチャスチャと金属が鳴る。


振り向くことが出来ない。恐ろしい。何を考えている?


遠くからサイレンの音が近づいてくる。一瞬安堵したが、すぐに警察など何も解決できないことを思い出した。


さらにサイレンの音が近づき、視界にパトカーと警察が入ってきた。少し離れたところに数台停りこちらにメガホンでなにか話してくる。


「アーバンゲリラ!! 止まれ!!」

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