内見と新居決定
「泉、聞いてるの? 」
母の声で我に返りまず周りの状況を確認することにした。
大人たちの対応を見るにそれほど時間はたっていないのだろう。
おそらく数秒、長くとも数分くらいか。
彼女たちのほうにめをやると、彼女たちも祖母の言葉を整理できずにフリーズしていたらしく、俺と同じような反応をしている。
いきなり三人で一緒に暮らすなんて聞かされれば当然そうなってしまう。
二人を見たことで少し落ち着けた。
聞き間違えということはないだろうが念のため祖母に聞き返すことにする。
どのみち聞かなければ頭の整理をすることもできない。
「ばあちゃん、三人で一緒に暮らすってどういうこと? 」
「どうって、そのままの意味さ。三人で暮らすことでより深く互いのことを知れるだろ?それに、将来的に結婚するならその練習にもなるだろうからね」
お見合いということは結婚を前提としたものであり祖母の言うことも十分理解できる。
でも、大きな問題があることに祖母は気づいているのだろうか?
そのことを言えばもしかしたら────────などと考えたがそれは無意味だ。
母と彼女の両親が何かを言っていたのはおそらくそのことですでに何かしらの考えを持っているに違いない。
俺や彼女たちが何を言っても変わらないのであればやることはただ一つ。
諦めて大人たちの言うことを聞きながら何とか条件を付けることだ。
その条件を決めるために三人で話したいが現状ではなかなか難しい。
例えば、三人で少し話したいと座敷を後にすればその間大人たちに詳細を決められてしまうかもしれないし、ここで話すにしても大人たちに聞かれてしまう。
だからといって俺が勝手に条件を決めるのはよくない。
どうすればいいのかと頭を抱えて悩む俺の肩にポンと手が置かれる。
その手の主は母で数回肩を軽く叩かれ、俺の目を見て自分の胸をドンっと叩く。
これは自分に任せておきなさいという母の合図で俺を安心させるためによくしてくれていたものだ。
「お母さん、それに大北さん。私に提案があるのだけど、三人で一緒に暮らすのはよくないと思うの。学校で変にうわさされるのもよくないし」
「 「それは私も思ってました」」
「そうですよね?だから、お隣に住むっていうのはどうかしら?それなら万が一学校でばれても問題ないし」
「確かにそうですね。でも、それなら今のままでもいいんじゃ? 」
「それに家賃も二倍かかりますし・・・・・・」
流石母というべきか、俺にとって都合のいい状況になりつつある。
このまま上手くいってくれれば────────
「なるほどねぇ、そういうことにしたいんだね」
祖母の言葉に母の肩がぴくっと動き、彼女の両親も似たような反応をする。
いつもと変わらない声色ではあるがどこか怖く、少し微笑むような祖母の表情がさらに怖さを増幅させた。
俺の考えすぎなのかもしれないが最初からこうなることが分かっていたのかもしれない。
もし仮にここまでのすべてが祖母の掌の上だとすれば祖母にとって最も都合のいい状況になりつつあるのか?
いや、まさかそんなはずはない。
そうだ、そんなわけないに決まっている。
祖母がバックから取り出した紙二枚を母と彼女の両親に一枚ずつ渡した。
たったそれだけで三人は何かを察したようで顔を見合わせた。
何が起きているのか理解できない俺と彼女たちはただ黙ることしかできない。
少しでも情報を得たいと祖母を見るがいつのまにか頼んでいたコーヒーを飲んでいるだけで特に何も得ることはない。
彼女たちも似たようなもので両親の様子をうかがっているようだが特に何もないようだ。
今日何度目かの静かな時間は数分続き、母と彼女の両親が祖母のほうを向く。
それに気づいた祖母はコーヒーを飲み干し、カップの置かれていた皿にゆっくりと音をたてないように置き三人の視線に目を合わせ話しをする空気を作る。
「お母さん、本当にこの金額で借りられるの? 」
「あぁ、そこに書いてあることは本当だよ。偶然知り合いが借り手を探していて前世話になったからってね」
「そう、これなら安心だし金銭面も問題ないし・・・・・・」
「私たちも特に問題は・・・・・・」
「そうね、セキュリティーもちゃんとしてるし大通りにあるのも安心よね」
流れが完全に変わってしまった。
もうこれは三人で一緒に暮らすしかなくなったのかもしれない。
そう思ったのは俺だけでなく彼女たちも同じようだ。
何を言ってももう意味はなくいうことを聞くしかない────────なんてそんないい子供ではない。
確かにここから何を言っても何も変わらないのはもう決まっている。
でも、まだやれることはある。
それは条件を付けること。
母も言っていたように万が一学校でばれたら面倒ことになることは簡単に想像できてしまう。
二人は校内でかなり有名な方で当然人気もある。
仮にどちらか一人と暮らしているならまだましかもしれないが三人でとなれば話は違う。
変な噂やストーカー行為、俺や彼女たちに危害が及ぶ可能性は増す。
それだけは何としてでも避けなければならない。
そのために絶対譲れない条件は同じ家に住まないこと。
同居ではなくあくまでご近所さんという状態にしておきたい。
そうしておけばもしばれたとしてもそこまで悪影響はないだろう。
と、考えていたがこれを条件として出したところで意味はない。
母と彼女の両親の反応を見るにそれはすでに含まれているだろう。
ほかにも思いつく条件はあるが、それは俺と彼女たちの間ですり合わせればいいものばかり。
母も彼女の両親も彼女たちも、もちろん俺もこの状況を覆すことができないとわかってしまった。
それから祖母は俺と彼女たちにも紙を見せどうするかと聞いてきたがもちろん断れるわけもなく同居の話は進む。
その場で知り合いに電話をかけ内見の日程も決まったところで店を後にした。
軽く挨拶をして彼女たちと分かれ、それぞれ家へと帰る。
数時間しかたっていないはずなのにその時間以上の疲れを感じていた俺は帰宅後すぐに眠りについた。
内見当日、学校から二駅離れた駅の東口に薫と桃梨、彼女たちの母親と俺と母の五人で祖母と祖母の知り合いを待つことに。
その間、母は彼女達の母親と話をし、彼女たちも二人で話をしている。
当然俺は一言も話すことはなくただただボーっとしている時間が続く。
唯一あったこととすれば彼女達の母親の名前が
祖母と祖母の知り合いと合流してすぐに内見へ向かった。
場所は駅から徒歩八分ほどの大通りに面した十三階建てのマンション。
外観を見る間もなく中に案内されエレベーターに乗り、押された階数は十一階。
数分ほどで目的の階に着きエレベーターから降り、部屋へと向かう。
案内された部屋は一一○一号室。
何か違和感を覚えたがそのまま部屋の中に入る。
間取りは2LDKでかなり広く、キッチンを見た母が見たことのないテンションになっていた。
浴室やトイレはもちろん二部屋ともきれいで生活する分には全く問題はない。
ただ一つ気になることがありそれは彼女たちも同じだろう。
一つはこの部屋には二部屋しかなくこのままだと同居になってしまうこと。
そのことを訊くために祖母を見ると、俺の視線に気づきベランダに出る許可を得てから俺と彼女たちに手招きする。
何のために呼ばれたのかわからないままベランダへ出ると理由が分かった。
この部屋にあるベランダ側の窓はリビングと一部屋の二箇所だけなはずだがそこには三箇所ある。
それが何を意味するのか言われなくても何となく想像でき、大人たちが話していたことを思い出しこういうことだったのかと納得してしまう。
「お姉ちゃん、これってそういうことだよね? 」
「たぶん、そういうことだと思うけど・・・・・」
どうやら二人も同じようなことを思っていたらしく、それを聞いた祖母の口角を少し上げ微笑む。
「三人とも気付いているだろうけど一応言っておくよ。田嶋さん、説明をお願いしても? 」
「かしこまりました。まずは改めて皆さんに自己紹介をさせていただきます。私は不動産を営んでいる田嶋というもので以前、西宮さんにお世話になり今回その恩を少しでも返せたらという思いでこの部屋を紹介させていただきました」
「次に本題ですがこの一一○一号室と隣の一一○二号室はベランダで繋がっており、仕切り板がないのは二世帯で住むこと特に介護等を想定していたためです。この部屋以外にも十階以上の一、二号室も同じつくりになっています」
「二号室の方も後ほどご案内しますが、この部屋とは異なり1LDKとなっていてキッチンや浴室等の広さは変わりません。以上で説明を終えますが何か疑問点等あればお声がけください」
説明を聞き終え、俺と母・祖母の三人は田嶋さんと二号室の方を見に行くことになり、華さんと薫・桃梨はこの部屋に残ることにしたらしい。
三十分程度で内見を済ませ一号室に戻り、残っていた三人と合流して賃貸契約に必要な書類にサインする日を決めて解散した。
一週間後、賃貸契約書にサインするために田嶋さんの元に訪れて無事契約を終え、六月一日に入居することが決まり薫と桃梨も同じ日に決まったらしい。
新居が決まったことを祝うために五月の終わりに俺の家でパーティーをすることになり、引っ越し準備とパーティーの準備で慌ただしい日々を送りパーティー当日を迎えた。
条件あり。双子姉妹との3人暮らし(?) 影乃依 月 @kagenoituki
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