069
気がつけば、俺は見覚えのある庭園にいた。
ガーデンテーブルを中心に、様々な種類の薔薇が、花壇に植えられている。
「これは……夢だな」
そう、すぐに分かった。
俺は視界に映った景色を舐め回すように見る。
……やはり、間違いない。
俺は少し前、ここに来たことがある。
奴隷市場へやってきた日、夢の中でここに来た。
しかし、前回とは違うところが一箇所だけあった。
「……喋れる。それに、思考も働く」
前回は、喋るどころか、何かを考えることさえできなかった。
これは、前回見た夢の謎を解き明かすチャンスかもしれない。
俺は、探索しようと歩き出す。
しかし……。
「……え、あれ? なんだこれ、身体が動かねえ……」
なぜか、足が動かなかった。
もしや、と思い手を動かそうとしてみるも、こちらも動かなかった。
今のところ、目線しか動かすことが出来ない。
「おいおい、なんだよこれ。これじゃあ何も……」
反射的に、言葉を止めた。
目の前に、真っ白なシルエットが浮かんでいたからだ。
これも、前回見た夢と同じ。
何かのシルエットは、俺と対面していた。
やはり、男の体格だった。
本当に、この夢は何なのだろう。
「……ちょっとまて。前回と同じってことは、まさか……」
俺は目だけを動かし、自分の身体を見た。
すぐに、巨大なボール2つが目に入った。
それを見て、俺はげんなりとする。
やはり、俺の身体は女のものになっていた。
「あれ? でも、今度は傷一つないな」
前回は、身体中に多くの切り傷があった。
しかし、今回はそれがない。
袖からは、肌艶の良い腕が覗いていた。
シルエットが揺れ動いた。
俺は反射的にそれを見る。
「……?」
ふと、違和感を感じた。
前回と、少し違う気がする。
……いや、少しじゃない。
シルエットの横幅が、明らかに広くなっていた。
「……え、ちょっ、なになに……」
俺の両手がひとりでに動く。
俺は男に、両手のひらを向けていた。
前回は、俺がシルエットに両手を向けられていた。
「……ほんとに、なんなんだよ、これ」
前回と今回。
違いがあるのは、何か意味があるのだろうか。
前回では確か、両手を向けられて意識が落ちた。
だから俺は、この後どうなるのか知らない。
シルエットはゆっくりと膝をついた。
もがき苦しんでいるように見える。
俺の身体は勝手に動き、振り返った。
視界の隅に、白い
「あれは……」
考えようとすると、頭がぼんやりとしてきた。
視界が少しずつ薄れていく。
* * *
「ユウキ殿、起きなされ。そろそろ頭を起こしておいたほうがいい」
バーバラの声が聞こえ、俺は目を開けた。
ゆっくりと起き上がり、時計を見る。
時刻は11時45分になっていた。
どうして寝ていたんだったか、と考えて、すぐに思い出した。
試験が始まるまで、身体を休めていたのだ。
目をこすり、先ほどの夢を何度か頭の中で再生してみる。
あれは……あの夢は、何なのだろう。
内容に若干の違いはあるものの、ああいった夢を見るのは今回で二度目だ。
「あと15分ほどで試験が始まる。出遅れることがあってはいけないからのう。もう起きておこうぞ」
「そうだな……」
気になることは多いが、とりあえず今は、考えないようにしよう。
ただの夢に振り回されるなど、あってはならない。
二次試験のことだけを考えていればいいのだ。
サラとユラの姿を探す。
少し離れたところで、談笑しているのを見つけた。
既に起きていたらしい。
周りを見ると、起きている奴隷の方が多いことに気が付いた。
チームごとに円をつくり、何やら話し合いをしている。
今回の試験について、作戦でも立てているのだろう。
俺はサラとユラを呼び、他のチームと同様、円を作った。
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