第十五話: 冬の小さな贈り物

 雪の日の集いから数日後、フィオは村の暮らしにもすっかり馴染み始めていた。都会の生活とはまるで違うこの日々が、心を豊かにしてくれるのを感じていた。


 そんなある朝、ミナが訪ねてきた。「フィオ、今日は特別な場所に行こうと思うんだ。」彼女はニッコリと笑いながら言う。少し戸惑いながらも、フィオはその誘いに乗ることにした。


 二人が向かったのは、村から少し離れた丘の上。足元は雪に覆われているが、ミナが準備してくれた手作りのブーツがフィオを支えてくれた。


 「ここで何をするの?」フィオが尋ねると、ミナは少し遠くを指差した。「もうすぐ分かるよ。」


 丘を登り切ると、そこには広がる真っ白な雪原の中に、ぽつんと一本の大きな木が立っていた。葉を落としたその木の枝には、いくつもの小さな巣箱が掛けられている。


 「これ、村の人たちが作ったの?」フィオは驚きと共に尋ねる。

 ミナは頷きながら説明した。「そうだよ。冬になると、鳥や動物たちが食べ物を見つけるのが難しくなるでしょ?だから、こうして巣箱に食べ物を入れておくんだ。」


 二人は巣箱を一つ一つ確認しながら、干し果物や種を補充していった。フィオはその作業が楽しく、そして心温まるものであることに気づいた。「都会では、こんなふうに動物たちに直接触れることなんてなかったな。」


 作業を終えた頃、ふと近くの木から小鳥のさえずりが聞こえてきた。フィオが目を凝らすと、小さなスズメが巣箱に近づき、置いたばかりの干し果物をついばんでいる。


 「可愛い……!」フィオは思わず声を上げた。その様子を見ていたミナも嬉しそうに頷く。「これが冬の贈り物なんだよ。私たちがちょっと手を貸すだけで、こうして小さな命が助かるんだ。」


 その言葉に、フィオの胸がじんわりと温かくなった。エルム村での日々は、人と自然が寄り添う暮らしそのものだった。


 帰り道、フィオはミナに言った。「私、この村に来て良かった。都会では見過ごしてた小さなことが、ここではすごく大きく感じる。」

 ミナはフィオの手を握りながら言う。「それがこの村の魅力だよ。一緒にもっといろんなことを見つけていこうね。」


 フィオの心にまた一つ、新しい感動が刻まれた。その日、彼女はこの冬の贈り物を忘れないだろうと、雪に覆われた道を歩きながら静かに思った。


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