　冬の足音が聞こえ始めたある朝、フィオが目を覚ますと、外の景色がいつもと違っていた。窓の外には一面の銀世界が広がり、木々や屋根は白い雪に覆われている。フィオはその光景に驚きながら、思わず声を上げた。

　「雪だ……！」

　都会では滅多に見ることのなかった雪。フィオにとって、それは子どもの頃に絵本で見た憧れの風景だった。外に出てみると、冷たい空気が頬に触れ、靴の下で雪がサクサクと音を立てる。

　その頃、ミナが家の前でフィオを待っていた。手には何か丸いものを持っている。

　「おはよう、フィオ！初めての雪、どう？」

　「すごく綺麗！でも寒いね……」とフィオが震えながら答えると、ミナはくすりと笑った。

　「じゃあ、これで暖まって。」とミナが差し出したのは、焼きたてのパンにハチミツをたっぷり塗ったものだった。フィオはそれを受け取り、手を温めるようにして一口かじる。甘さと香ばしさが広がり、冷えた体に温かさが戻るのを感じた。

　「ありがとう、ミナ。これ、すごく美味しい！」

　「ふふ、雪の日にはこういうものがぴったりなんだよ。」

　二人はその後、村を歩きながら雪景色を楽しんだ。普段と同じ道も、雪が積もるだけで全く違う世界のように見える。フィオはその変化に感動しつつ、ミナにいろいろと雪の日の過ごし方を教えてもらった。

　「ねえ、フィオ。雪遊びしたことある？」とミナが尋ねる。

　「ないよ。都会だと雪が積もること自体が珍しいから……」

　「じゃあ、今日は一緒に楽しもう！」

　そう言うと、ミナは手早く雪玉を作り、フィオに向かって投げた。それがフィオの肩に当たり、冷たい感触に思わず驚いたフィオだったが、すぐに笑顔を浮かべて雪を掴み返した。二人は雪合戦を始め、村の広場まで駆け回った。

　途中で村の子どもたちも加わり、さらに賑やかに。フィオは大人でありながら、いつしか子どもたちと同じようにはしゃぎ回っていた。都会では感じられなかった自由さと楽しさが、この村にはあった。

　夕方になると、空がオレンジ色に染まり、雪原も暖かな色に包まれた。フィオは息を切らしながらミナの隣に腰を下ろし、静かに空を見上げた。

　「雪の日って、こんなに楽しいんだね。」

　「でしょ？冬は寒いけど、こうやってみんなで楽しむのがエルム村流だよ。」

　フィオはこの村での新しい日常を、またひとつ深く好きになった。雪の日の思い出が、彼女の心をほっこりと温めた。

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