第十一話: 冬を迎える前の祭り
冬の訪れを前に、エルム村では「秋渡りの祭り」が行われることになった。この祭りは、秋の収穫を感謝し、冬の厳しさを乗り越えるために村人たちが心を一つにする大切な行事だった。フィオはこの祭りに初めて参加することになり、期待と緊張が入り混じった気持ちで準備を始めた。
祭りの日、村の広場には収穫物や色とりどりの飾りが並べられ、村中が賑やかな雰囲気に包まれていた。パンやスープ、焼きリンゴといった手作りの料理が振る舞われ、暖かい飲み物の香りが広場を満たしていた。フィオはその光景に目を輝かせながら、ミナと一緒に村人たちと交流を楽しんでいた。
「フィオ、これを試してみて!」ミナが差し出したのは、村特製のハーブ入りスープだった。一口飲んだフィオはその優しい味わいに驚き、「すごく美味しい!」と笑顔を見せた。「このスープ、どうやって作るんですか?」
ミナは嬉しそうに答えた。「森で採れたハーブと、村で育てた野菜を使ってるの。村ならではの味だよ。」
その後、フィオは村人たちとともにダンスや歌に参加した。焚き火を囲んで手をつなぎ、みんなで輪になって踊る光景は、都会では経験したことのない、心温まるひとときだった。フィオは笑い声や歌声に包まれながら、この村で暮らし始めたことが本当に幸せなことだと感じた。
夜が更けると、祭りのクライマックスが訪れた。広場の中央に置かれた大きな灯篭に火が灯され、村人全員で願い事を唱える時間だ。フィオはそっと目を閉じ、心の中で願った。
――この村での生活が、これからも穏やかで幸せなものでありますように。
灯篭の炎が夜空を照らし、村全体が柔らかな光に包まれる。その美しい光景に、フィオは胸がじんわりと温かくなるのを感じた。周りを見渡すと、村人たちもみんな穏やかな表情を浮かべていた。
祭りが終わり、家へ帰る道すがら、ミナがフィオに微笑みかけた。「どうだった?初めての秋渡りの祭りは。」
フィオは頷きながら答えた。「本当に素敵な時間でした。この村で暮らし始めて、みんなの温かさを改めて感じました。」
ミナはその言葉に満足そうに笑い、フィオの肩を軽く叩いた。「これからも一緒に楽しい時間を過ごそうね。」
フィオはその言葉に勇気づけられながら、エルム村での暮らしがますます楽しみになった。冬の訪れを前に、フィオの心にはしっかりと村の温もりが根付いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます