第三話: 初めての素材採取
翌朝、フィオは村人たちに教わった小道を歩きながら、近くの草原へ向かっていた。エルム村の周りには広大な自然が広がっており、野草や薬草が豊富に採れると聞いて興味をそそられたのだ。「自然の中で何かを見つけるって、どんな感じだろう?」と胸を弾ませながら足を進める。
草原にたどり着くと、まるで絵画のような光景が広がっていた。一面に咲き誇る花々、風に揺れる長い草、そして頭上には抜けるような青空。フィオはその美しさに思わずため息をついた。都会では決して見ることのない景色が、ここには広がっている。「本当に来てよかったな…」と小さく呟き、持参した小さな籠を手に取った。
「さて、まずはどれを摘めばいいんだろう?」フィオは足元をじっくり観察する。昨日ミナから聞いた通り、初めて採取するなら安全な野草から始めるのがいいらしい。「確か、丸い葉っぱのクローバーみたいな形をした草…」と記憶をたどりながら草を分けていく。
しばらくすると、目の前にそれらしい草が生えているのを見つけた。葉の形と薄い緑の色味がぴったり一致している。「これだ!」とフィオは慎重にその草を摘み、籠に入れる。心なしか、少しだけ冒険者になったような気分になった。
その後も、花の香りを楽しみながら摘み取りを続けていると、ふと後ろから気配を感じた。振り返ると、そこには小さな動物がじっとこちらを見つめている。「リス…かな?」とフィオは思ったが、どこか違う。耳は少し尖り、目がキラキラと輝いているその姿は、普通のリスとは明らかに異なっていた。
フィオがじっと見つめ返していると、その小さな生き物はぴょんと跳ねて彼女の近くに寄ってきた。驚きつつも、フィオはしゃがみこんで優しく話しかける。「こんにちは。君、どこから来たの?」
すると、不思議なことに、その小さな生き物は小首をかしげながら、フィオの籠をじっと見つめた。どうやら、中に入った草に興味があるらしい。「これが欲しいの?」と一枚渡してみると、嬉しそうにそれを抱えて食べ始めた。
「ふふっ、可愛いなあ。」フィオはその仕草に思わず笑みをこぼす。小さな生き物が満足した様子で跳ね回るのを見ていると、都会での疲れや悩みがふっと消えていくようだった。
太陽が少し傾き始める頃、フィオは籠いっぱいの草を抱えて村へ戻ることにした。初めての採取は想像以上に楽しく、何より新しい出会いもあった。帰り道で、「あの子、また会えるといいな。」と心の中で呟きながら、フィオは穏やかな笑顔を浮かべていた。
こうして、彼女のエルム村での新しい生活は、少しずつ色を帯び始めるのだった。
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