第二話: 新しい家と村人たち

 引っ越し初日の朝、フィオは鳥のさえずりで目を覚ました。都会ではアラームの電子音に起こされる毎日だったが、ここでは自然がその役目を果たしてくれる。それが新鮮で、思わず窓を開けると、澄んだ風がフィオの髪をそっと撫でた。


「ここ、本当にいいところだなぁ。」

そう呟いて家の中を見渡す。ミナに案内されたこの家は、少し古びているものの、温かみがあった。木の柱には年季が入り、棚には前の住人が置いていったらしい陶器のマグカップが並んでいる。壁には小さな窓がいくつもあり、朝日が優しく差し込んでいた。


 フィオは持ってきた荷物を少しずつ片付けながら、この新しい空間を自分のものにしていく喜びを感じていた。「次は村を見て回ろうかな。」そう思い立ち、外に出ると、すぐに近所の人たちが声をかけてくれた。


「おや、新しい住人さんかい?」

「都会から来たって聞いたよ。うちの野菜、良かったら持っていきなさい。」


 次々と声をかけてくるのは、年配の夫婦や若い母親、畑仕事を終えた青年たち。手に持たされたのは、真っ赤なトマトや鮮やかな葉野菜。都会のスーパーで見るものとは違い、どれもみずみずしくて美味しそうだった。


 フィオは恐縮しながらも笑顔でお礼を言い、もらった野菜を大事そうに抱えた。「これだけでも、お昼ごはんは贅沢になりそうだな。」と内心喜びながら、村を歩き続ける。


 やがて広場にたどり着くと、昨日のミナが大きな木の下で座っていた。隣には村の子どもたちが集まっており、何やら楽しそうに話している。フィオが近づくと、ミナは顔を上げて言った。


「どうだい、村の様子は?」

「とっても素敵です!皆さんが優しくて、もうたくさん野菜をもらっちゃいました。」

フィオが笑顔で答えると、ミナは満足そうにうなずいた。「エルム村はみんな家族みたいなもんさ。それに、あんたは都会から来た珍しい人だ。そりゃ、少しばかり親切が過ぎるかもしれないね。」


 子どもたちが興味津々な目でフィオを見ているのに気づき、彼女は優しく手を振った。「都会から来たって聞いたけど、何してたの?」と、素朴な質問が飛んでくる。


「オフィスで働いていたの。でも忙しくてね、ここみたいな場所でゆっくり暮らしたいと思ったの。」

そう話すと、子どもたちは「ここなら大丈夫だよ!」と口々に言い、無邪気に笑った。その姿にフィオは心から安堵した。


 村での生活はまだ始まったばかりだが、この暖かい人々とともに歩んでいける気がしてならなかった。


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