故郷

菜の花のおしたし

第1話 60年ぶりの生まれ里

娘が迎えに来てくれた。

もう、あかんのんちゃうかなと思ってたんよ。

私の事、忘れてなかったんやねぇ。

あれ、孫もいてるやんか。

ありがとう、ありがとう。


最期にお寺さんの読経聞かせてもろて

ありがとうやね。


娘に手を引かれて。

孫の話を聞いて。


いろんな事があったけど。

みんな終わった事。

悔しいとも、悲しいとも思わへん。


娘の話では生まれ里へ帰ろと言う事らしい。

嬉しなぁ。

もう、にいちゃんもねえちゃんもいもうともおとうともおらへんやろなぁ。


しばらくは娘の家におるんやね。

うちの娘はこないな子やったんかいな。

孫はおちょけやなぁ。

見てて笑いが止まらんわ。


なんやかんやの手続きで時間がかかったけど。

生まれ里へ帰れる事になった日は帰りとうても帰られへんかった気持ちが込み上げてきてしもた。


電車に乗って、生まれ里の大きな駅に着いた。

変わったなぁ。思い出のカケラもあれへんなぁ。60年ぶりやもんな。

娘が言うた。

「大丈夫よ。街は何処でも変わってしまうけど、変わらない所があるから

そこに行こうね。」

何処やろなぁ。

電車に乗って行く。だんだんと潮のにおいがする。海や。


電車を降りたら、一面の海や。

この海、変わってへん。懐かしな。

子供の頃とかな、海水浴に来たんやで。


娘と孫と船に乗った。

いい海風やなぁ。

そうか、ここに返してくれるやな。

ほら、ええわ。


「お母さん、長い間お疲れ様。やっと、ここへ帰ってこれたよ。ここには、お母さんの親もきょうだいも友達もみんなと会えるから。

それと海は繋がってるからね。私の住んでる所にも港があるから。」

私はそう言いながら、母の真白でさらさらの骨を海にまいた。

母は喜んでくれたのだろうか。


私の中で母はやっと安らな存在になった。












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故郷 菜の花のおしたし @kumi4920

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