セシリア・フィンセント視点ー『1話』
私のせいだ....。
私のせいでお兄様が刺された。
「お兄様!!やめてッ!!」
あの時、私が魔法が解けてお兄様の方へ叫んだ言葉が...これ以上、お兄様に人を殺してほしくないと望んだ言葉が、お兄様を傷つけてしまった。
今もまだ目覚める様子もなく、私の前で眠りについているお兄様に、私はどう謝れば良いのだろうか。
いや...謝っても済む問題ではない。
私の言葉がなければ、お兄様はあのまま、あの男を斬っていたはずだ。
何事もなく、終わっていたはずなのだ。
それなのに...私が余計な事をしてしまった。
あの瞬間、お兄様が刺される瞬間、私は何も出来ずにその場に呆然と立ちすくんでしまった。
私は...一体何をしているのだろうか。
今まで散々迷惑をかけた挙句、私をあの暗闇から救い出してくれた人に重傷を負わせて、今も見守る事しかできない。
「私.....。」
涙がポトポトと地面に落ちるのを見て、すぐに目元を拭う。
私に泣く権利なんてない。
泣いてお兄様が目覚めてくれるのなら、何時間だって何日だって泣き続けるが、泣いたって現状は変わらない。
「早く起きてよ.....お兄様......。」
そう呟きながら、額に置いた濡れタオルを交換する。
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お兄様の容態は、刺された当初、護衛の人と父様が処置をして、ギリギリ一命は取り留めた。
その後、あの襲われた場所から1番近い設備の整った場所が公爵家の屋敷だったので、応急処置をしながら馬車で屋敷に向かい、着いた先で緊急手術となった。
医者からは、本人の疲労と傷の深さからして助かる確率は五分五分だと言われた。
母様は泣き崩れ、父様はそんな母様にずっと寄り添っていた。
私は、そんな2人をまともに見ることもできず、ずっと下を向いていた。
「手術が終わりました。」
そう言って、医者が部屋から出てくると母様は直ぐに手術の成功を確かめた。
医者の答えは成功....だった。
それを聞いた母様も父様も、嬉しそうに抱き合っていた。
私も嬉しくて泣き出しそうになったが、その話にはまだ続きがあった。
続きというのは、お兄様が...もしかしたらもう目覚める事はないかもしれない、というものだった。
医者の話によると、今回の戦闘でお兄様は過度の魔力枯渇に陥ってしまった様で、体にも大分無理をさせていたらしい。
その上、あの重傷だ。
生命活動を維持するのだけで精一杯かもしれない、というのが医者の見解だった。
私達は、希望からまた絶望の淵へと落とされてしまった。
そこからの時間の進みは早かった。
お兄様のいない世界は...私の中の何かが無くなってしまったかの様だ。
父も母も、私がお兄様に重傷を負わせてしまった張本人だというのに、私を責めはしなかった。
それ所か、私を気遣ってくれさえしてくれた。
「セシリアお姉様...大丈夫ですか?」
そう私を気遣う様に話しかけてきたのは、フィンセント公爵家次男、ダニア・フィンセント。
私よりも3歳下の義弟だ。
「えぇ...ありがとう。ダニア...。」
「い、いえ!お元気なら良かったです!これ、受け取ってください!!」
そう言って、私に手渡してきたのは、紫色に染まるラベンダーの花束だった。
「....ありがとう。ダニア...。お部屋に飾らせてもらうわね。」
「...はい!!」
そう言って、駆け足でその場を離れるダニアを見送りながら、私はラベンダーの花を見つめる。
いつもお兄様が贈ってくれていた花束とは違い、整った花束を見て、ついクスッと笑みが溢れる。
兄弟といっても、似て似つかない2人の性格に少し頬が緩んでしまうのはいつもの事だ。
しっかり者の弟と、怠がりな兄。
対照的な2人を見て、笑う日々...。
あの日々に戻れるのなら...。
「お兄様.....。」
私はなんだってするのに.....。
異世界に転生したら、義妹が乙女ゲーの悪役令嬢でした。~今世は義妹をハッピーエンドに導きたいと思います〜 蜂乃巣 @Hatinosu3268
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