帰るべき場所
コラム
***
寒風が吹きすさぶ小さな村エルダン。
朝日が昇る中、村の広場には一人の若者が立っていた。
彼の名はエドワード。
彼は村で最も優れた兵士であり、村人たちからの信頼も厚い。
しかし、その朝、彼は戦場へと向かうために村を離れることになっていた。
「どうか無事に帰ってきてくださいね」
エドワードの恋人、リディアが涙を浮かべながら彼を見送った。
エドワードは彼女の手を優しく握りしめ、「必ず帰るから待っていてくれ」と約束した。
そして、彼は馬に乗り、戦場へと旅立った。
馬の蹄の音が遠ざかる中、リディアはその背中を見つめ続けた。
戦場では、エドワードは勇敢に戦った。
彼の剣は敵を次々と討ち倒し、彼の名は広く知られるようになった。
しかし、戦いは苛烈を極め、多くの仲間たちが命を落とした。
戦場には絶え間ない叫び声と血の臭いが漂い、エドワードもまた、幾度となく死の淵をさまよいながら戦い続けた。
ある日、エドワードは敵軍の大将との一騎打ちに挑んだ。
激しい戦いの末、彼は勝利を収めたものの、深い傷を負ってしまう。
彼の体力は尽き果て、戦場で倒れてしまった。
視界がぼやけ、意識が遠のく中、彼の心にはリディアとの約束が浮かんでいた。
エドワードが意識を取り戻したとき、自分が戦場の野営地に運ばれていることに気付いた。
彼の傷は深く、村へ帰るのは不可能だと思われた。
それでも、彼はリディアとの約束を果たすために、どうしても村に帰りたいと強く願った。
仲間たちの助けを借りながら、エドワードはゆっくりと村へ向かい始める。
「リディア……。待っていてくれ……」
エドワードの体は限界に近く、一歩一歩が苦痛を伴った。
それでも彼は、リディアの待つ家を思い浮かべながら歩き続けた。
――数週間後、エドワードはついにエルダンの村に辿り着いた。
しかし、彼の体力は完全に尽き果てており、もはや一歩も動けない状態だった。
彼は村の広場に倒れ込み、最後の力を振り絞ってリディアの名前を呼んだ。
リディアは村の広場でエドワードを見つけ、涙ながらに駆け寄った。
「エドワード、無事に帰ってきてくれてありがとう」
「約束を果たしたよ、リディア」
リディアが彼を抱きしめると、エドワードはかすかに微笑み、囁くように返事をした。
彼の手のひらは冷たく、震えていた。
リディアは彼の手をしっかりと握りしめ、温もりを伝えようとした。
しかし、その瞬間、エドワードの目がゆっくりと閉じ始めた。
彼の呼吸は浅くなり、苦しげな声が漏れる。
リディアは必死に語りかけた。
「どうしたの、エドワード……? ねえ、ねえったら! やっと会えたのに……しっかりしてッ!」
しかし、彼の体から力が抜けていくのを感じた。
エドワードの顔色は次第に青白くなり、その瞳は光を失っていく。
リディアは彼の名前を何度も呼び続けたが、彼の返事はもう聞こえなかった。
静寂が広場を包み込み、リディアの心に深い悲しみが広がった。
エドワードが亡くなった後、リディアは深い悲しみに沈んだ。
しかし、彼の勇敢な姿と約束を守った強い意志は、村人たちに勇気と希望を与えた。
リディアはエドワードの遺志を継ぎ、彼が守りたかった村を守り続けることを誓った。
村の子供たちにエドワードの物語を語り継ぎ、彼の勇気を伝え続けた。
エドワードの墓は村の広場に建てられ、彼の名は後世に語り継がれることとなった。
彼の帰りを待ち続けたリディアは、エドワードとの思い出を胸に抱きながら、新たな希望を胸に村を守り続けた。
エドワードの魂は、愛するリディアのもとへと帰り、彼女と共に過ごすことができることを願った。
彼の記憶は、リディアと村人たちの心の中に永遠に刻まれ、彼の帰る場所はいつまでもそこにあり続けた。
〈了〉
帰るべき場所 コラム @oto_no_oto
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