第1章

第1話 美少女四天王の1人、五十嵐 紗奈からの接触。

「聞いたかよ、イケメン四天王の石神、追放されたらしいぞ」


「あぁ、痴漢したんだってな。やっぱ俺思ってたんだよな~、いずれそういうことしそうだって。あいつ、確かに顔はイケメンかもいれないけどぼっちの陰キャだし。ぶっちゃけ俺の方がモテてるしw」


「それな~、あいつ他の四天王3人と比べて明らかに浮いてたしな」


 俺――石神 玲人がイケメン四天王とかいう組織から追放された日、クラスでは案の定そんな声が飛び交っていた。


 正直、俺としてはどうでもいい。別に周りからどう思われようが一切の興味がない。


 もともと四天王とかいうやつの1人だった頃だって、俺はいわゆるぼっちだった。


 ただ、イケメン四天王とかいう肩書のせいか、やたら女子から声をかけられた。連絡先とかもかなり交換を求められたものだ。


 むろん、他の3人の四天王とは違いモテることに一切興味のない俺は、今だに緑アイコンのチャットアプリには校内の女子のアカウントは1つも登録されていない。


 しかも男子生徒たちからはやたら嫉妬を買うし、本当に面倒な肩書だったな。


 イケメン四天王とかいう窮屈な枷を外した今の俺は、自由に胸を躍らせていた。ゆえに男子生徒の陰口などどうでもいいのだ。


 そんなわけで俺は足取り軽く教室を出る。


 帰ったら何しようかな……そんなことを考えながら昇降口で靴をはき替えていたときのことだ。


「石神っ!」


 不意に背後から声をかけられた。振り返ると俺と同学年の女子生徒が立っていた。


「あんた、四天王追放されたんだってね」


 片方の手を腰にあてて、少し不機嫌そうな表情をしてそう言う美人な女子生徒――五十嵐いがらし 紗奈さな。彼女は美少女四天王の1人だ。


 色白な肌に鮮やかな黒髪のショートヘア。気の強そうな印象を与えるややつり上がり気味の瞳をした美人顔。やや短めのスカートから伸びる白く長い脚には膝下の黒ソックスを身につけている。


 1年の頃、五十嵐とは同じクラスで、彼女は学級委員長だった。2年になってからはクラスは別々になったものの、四天王の集まりで顔を合わせることは多々あった。


 彼女という人間を一言で表すなら、正義の塊だ。絶対に間違っていることを許そうとしない。それもただ口先だけの正義感ではなく、身の危険を冒してでも絶対に間違えを正そうとする……。


 そんな彼女が、今回の件を受けて接触してこないわけがない。それはあらかじめ予想していたことだった。


「痴漢とかいう大罪を犯した俺を裁きに来たのか? 委員長」


「痴漢、したの?」


「いや、してない」


「でしょうね」


 冗談で会話を持ちかけたが、もちろん俺はわかっていた。彼女はその他大勢とは違い、このくらいのフェイクには騙されないだろうと。


「言っておくが……俺は別に今回の件を一切気にしてない。むしろ、窮屈な四天王とか言う組織を抜けられて自由を謳歌しているところだ」


「それは、そうかもしれないけど……」


 まぁ、してもいない罪を着せられ、冤罪をかけられるのは多少癪だが。ここで無駄に否定したところで余計に俺が犯人に見えるだけだ。


 今は、事が落ち着くまで沈黙を貫くのが最善策だ。そのうち、この件を仕組んだやつもボロが出てくることだろう。


 ただ、それをそのまま五十嵐に言っても納得しないだろう。自分とは一切関係なくても理不尽な思いをしている人を見れば負い目を感じてしまう。それが五十嵐 紗奈という人間だ。


 俺は、彼女の気質や人格というフィルターを通り抜けてすっと納得してもらえる言葉を考える。


「だから、委員長がこの件を背負い込むことはないんだぞ。それに今回の件くらい、その気になれば俺1人でいつでも片づけられる」


「わ、わかってるわよ……そのくらい。あんたがただ者じゃないってことくらい、わたしは知ってるんだから。あと、わたしはもうあんたのクラスの委員長じゃないんだけど――っと、ごめん、電話」


 途中で五十嵐のスマホが鳴り、彼女は十数秒会話をしてから電話を切った。


「例の四天王会議か?」


「……そういうこと。じゃあ、わたし行くから。またね、石神」


 そう言って手を振りながら去っていく五十嵐に俺も片手をあげて返す。


 そして、彼女に背を向けて俺は帰路につくのだった。





















 基本的に他人に興味がなく、合理的に考えて最善の選択をする事なかれ主義。しかし、心の奥底に眠っているのは五十嵐 紗奈と似た理不尽を許せないという感情。


 それが、石神 玲人という人間だった。


(五十嵐、あの様子だとやっぱり納得してないよな)


 ポケットに両手を突っ込んだまま、校舎へ体を回転させる。そして玲人は歩き出した。


「……やっぱ、少し動いとくか」

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