第8話 最後。
華乃の手を握りながら、俺は心の中で思いを巡らせていた。もし昨日、華乃が俺の家に来なかったら、こんなふうに思いを伝えることができなかっただろうと思うと、胸が少し締め付けられる。けれど、そんなことを華乃に言う勇気はなくて、ただモジモジとしながら、言葉にできない思いを胸の中に閉じ込めていた。
でも、その様子を華乃は見逃さなかった。
「輝人、なんか…変だよ?」
華乃が、ほんのりと笑いながらそう言った。その言葉に、俺は少し驚いて顔を上げる。
「え、何が?」
俺は焦って言葉を絞り出しながらも、心の中では「バレたかな?」と思っていた。
「なんか、もじもじしてるから、気になって。」
華乃が少し困ったような顔をして、言った。その瞳の中には、ちょっとした好奇心と優しさが混じっていて、俺はますます恥ずかしくなった。
「いや…なんでもないよ。」
俺は何とかごまかそうとしたが、華乃の目は鋭く、俺の気持ちを見透かしているようだった。
「ううん、嘘だよね?」
華乃は笑いながら、俺をじっと見つめてきた。その表情には、無理に隠さずにもっと素直になってほしい、という気持ちがにじみ出ているように思えた。
「ほんとうに…なんでもない。」
どうしても言葉にできなかった俺は、顔を赤くしながら視線を下に向けてしまった。
でも、その瞬間、華乃は俺の手をそっと握り直して、優しく言った。
「でも、私が来なかったら、今日もきっと言えなかったんだよね?」
その言葉に、俺は目を見開き、驚いて華乃を見つめる。
「え?」
華乃は少しだけ照れくさそうに、でもしっかりと俺を見返してきた。
「私も、輝人のことが好きだから。だから、少しだけ勇気を出して来てみた。」
華乃が恥ずかしそうに、けれど確信を持って告げたその言葉に、俺は何も言えずにただうなずいた。
その瞬間、心の中の迷いや不安が一気に消え去り、温かさが広がった。
「ありがとう、華乃。」
やっと素直にそう言うことができた俺に、華乃はにっこりと微笑んでくれた。
「私もありがとう、輝人。」
二人の間に、言葉以上の温かい何かが流れ、今まで以上にお互いの気持ちが繋がったような気がした。
勇気をくれた夜 輝人 @nog1_love
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