第3話 翌朝のこと

翌朝、目を覚ますと、部屋に淡い朝日が差し込んでいた。俺はぼんやりと天井を見上げながら昨夜のことを思い出し、瞬時に体が跳ね起きる。


「やっべ……マジでやらかした……」


俺の中の後悔と不安がぐるぐる回る。華乃はどう思ったんだろう。怒ってる?引いてる?それとも完全に距離を置かれる?昨日の「ふーん」が何を意味していたのか、未だに答えは見えない。


恐る恐る横を見ると、華乃は布団の中でまだ寝ていた。彼女の穏やかな寝顔に少しだけ安堵する。とりあえず怒って叩き起こされたわけじゃない。


俺はそっとベッドから抜け出し、キッチンへ向かう。何か作れば、少しは気まずさを紛らわせられるかもしれない。冷蔵庫を開け、卵とパンを取り出し、手際よく簡単なスクランブルエッグとトーストを用意する。


食卓を整え終えた頃、部屋から華乃が現れた。寝起きのふわっとした髪、まだ少し眠そうな目――その姿に心がざわつくのを必死で抑える。


「おはよう、華乃。」

俺が言うと、華乃は一瞬こちらを見た後、小さく「おはよう」と返した。その声に怒りや冷たさは感じられないけど、どこかいつもと違う空気が漂っている。


「朝ごはん作ったんだけど、食べる?」

俺は気まずさを隠すために明るく言う。華乃は少し黙った後、椅子に座り、静かに「うん」とだけ答えた。


二人で無言のまま朝食を食べる時間。これまでこんなに静かな時間を共有したことがあっただろうか?俺は耐えられず、意を決して切り出す。


「……昨日のことなんだけど。」

俺の声に、華乃の手がピタリと止まった。彼女はゆっくりと顔を上げ、俺を見つめる。


「ごめん、勝手にキスして……。その、もし嫌だったなら、俺――」


「嫌じゃなかったよ。」


俺の言葉を遮るように華乃が言った。その一言があまりに意外で、俺は言葉を失った。


「むしろ……嬉しかった。」


彼女は恥ずかしそうに目をそらしながらそう続ける。そして、小さな声で付け加えた。

「でも、次はちゃんと聞いてからしてよね。」


その言葉に、俺は驚きながらも胸がいっぱいになるのを感じた。彼女は怒っていなかったどころか、受け入れてくれていた。


「……分かった。次は、絶対に聞く。」

俺は笑いながらそう答えた。華乃も少しだけ笑ってくれた。その笑顔を見た瞬間、昨夜の迷いや不安が一気に吹き飛んだ。


朝の光が二人を優しく包み込む中、俺たちの距離はほんの少しだけ縮まった気がした。

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