すれ違いの朝

朝、私はいつものように原付に乗り、学校への道を走っていた。

ひんやりとした空気を切り裂く音とともに、前方に歩いている二人の姿を見つける。


真人と――夏。


普段なら一人で歩いているはずの真人の隣に、夏がいる光景は新鮮で少し意外だった。

二人の間に割り込むのは少し気が引けたけれど、気づけば私は声をかけていた。


「よっす!」


振り返った二人が軽く挨拶を返す。真人はいつも通りの無表情で、夏は明るく微笑んでいた。


「ひーちゃん、おはようございます!」

「原付、今日も元気そうだな。」


真人の皮肉っぽい一言に少しムッとしながらも、夏の明るい笑顔がその場を和ませていた。


「ひーちゃん、原付に乗って通学してるんですか?」

「そうだよ。便利だからね。でも途中までだけど。」


夏が驚いたように首をかしげる。

「でも…確か原付通学は禁止されていませんでしたっけ?」


「私は特別だからさ。」


冗談交じりに返す私に、横から真人が突っ込んでくる。

「許可なく乗ってるだけだよ。そのうち先生に見つかって停学だろうな。」


「真人、嫌味はいいから。」


軽く言い返すが、夏が少し心配そうに顔を寄せてくる。

「停学なんてダメですよ!せっかくまた会えたのに…。」


「大丈夫、大丈夫。途中で友達の家に停めてるからさ。」


「せめて僕らにとばっちりが来ないといいけどね。」


真人の冷たい口調にまたイラっとするけれど、夏が「まぁまぁ」と微笑みながら間に入ると、不思議とそれ以上言い返す気もなくなる。


三人で歩きながら談笑していると、気になることが一つあった。

真人が――私と話すときはいつも視線を逸らすのに、夏と話すときは真っ直ぐ目を見ているのだ。


(なんか…気に入らない。)


いつも無口でそっけない真人が、今日はやけに話す。しかも、夏には笑顔まで見せている。


私がモヤモヤした気持ちを抱えながら歩いていると、瑠美の家が見えてきた。

いつも通り、私は原付を瑠美の家の駐車場に停めると、彼女の元へ向かう。


「よっす!」


瑠美がこちらを振り返って手を振る。けれど、そこに真人と夏の姿はなかった。


「あれ、二人は?」

「もう先に行っちゃったよ。」


瑠美が肩をすくめながら答える。

「もしかしてだけど、さっき一緒にいたあの女の子…転校生だよね?」


「うん。夏って言って、小学校で一緒だった子なんだ。」

私が答えると、瑠美が少し意味深な顔をして口を開く。


「…新見夏でしょ?」


「え、なんで知ってるの?」


「あの子、自己紹介してくれてさ。でもすぐ真人に連れて行かれてたけど。」


「真人に?」


瑠美の言葉に、一瞬何か引っかかるものを感じた。

彼女の顔をじっと見つめる私に、瑠美は少しからかうような笑みを浮かべて言う。


「…あんた、もしかして気づいてないの?」


「何が?」


「真人、あの子には特別なんじゃないの?」


その言葉に心臓が少しだけざわついた。


「あの真人が女子を特別扱いなんてするわけないじゃんっ。」


「どうだかね。」


恋愛なんて興味がなさそうにしていたあの真人が突然、夏を特別扱いするなんて

ありえない。


「このままだと取られちゃうよ。あんたの彼氏。寝取られってやつ?」


「別に真人が誰と付き合おうが私には関係ないし。」


「どうだかね。」


「絶対にありえない。だってあの真人だよ。」


「必死に否定しちゃって可愛いやつめっ。」


私の頬を突く瑠美の手をはらい、私はズカズカと学校へと歩いていく。

終始瑠美にからかわれながらも。


教室に入ると、真人は机で寝たふりをしているのが見え、夏は同級生たちに囲まれ、何やら談笑しているのが見えた。

私は自分の席へと向かうと椅子に座る。

私に気づいた夏が目配せをするのが見え、私も彼女に目配せを送る。


「夏…人気者だね。」


「……」

真人に話しかけるが返事がない。


「無視するなんて生意気だぞ。」


何も返してこない真人の背中を軽く叩くと、真人は起き上がり、私の方へと顔を向けた。


「みんな…気になるんだよ。転校生のことが。」


「夏…困ってるみたいだから助けてあげたら。」


「残念だけど僕なんかが割り込んでも、誰も…こいつみたいな反応をされて終わるだけだよ。」


「自己肯定感低すぎやしない?」


「陰キャの定めだよ。」


そういうと、真人はまた机に顔を伏せた。


「薄情なやつめ。」


助けを出さない真人に変わって、私は夏に話しかける。


「ねぇ、質問攻めはやめたら?もうすぐホームルームが始まるし。」


「えっ…あっ…ああ、そうだね。」


夏を囲っていた生徒たちは私の声を聞くと、夏から離れていった。


「ありがとう、ひーちゃん。」


「これぐらい朝飯前だよ。」


親指を立ててグーポーズを夏に送ると、夏も同じように私に返してきた。


「そういえば、なっちゃんって教科書とか持ってるの?」


「えっ…ああ、まだ全部は揃ってなくて。」


「だったら私の貸してあげるよ。」


「えっ…それじゃひーちゃんが。」


「大丈夫だって。私、基本寝てるから。」


「それは…いいのかな?」


失笑している夏に、私は教科書を貸し、授業が始まると同時に私は寝た。

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