再会
教室のドアが開いた瞬間、空気が変わった。
朝の喧騒が嘘のように止まり、教室全体が静まり返る。窓際の席で寝かけていた比呂も、その空気の変化に気づいて顔を上げた。
ドアの前には一人の女生徒が立っていた。
肩にかかる艶やかな黒髪と、どこか涼しげな目元。彼女はわずかに微笑みながら、教室の中を一瞥する。
一瞬、比呂は言葉を失った。
(…誰だ?)
ざわざわと教室の中が再び活気づき、誰かが小声でささやく。
「え、新しい子?」
「めっちゃ美人じゃん!」
女生徒は動じることなく、ゆっくりと教壇へ向かう。そして、担任が紹介を始める。
「今日からこのクラスに加わる転校生だ。皆、仲良くするように。」
女生徒は軽く一礼し、静かに口を開いた。
「初めまして、新見夏です。よろしくお願いします。」
その名前を聞いた瞬間、比呂の中で何かが引っかかった。
(…新見夏?どこかで聞いたような…)
隣の席で真人がわずかに動揺しているのに気づく。
「真人、どうかした?」
比呂が問いかけると、彼は小声で答えた。
「いや…別に。ただ…どこかで会ったことがあるような気がして。」
その言葉に、比呂の胸の奥にも小さな違和感が広がる。
ホームルームが終わると、担任が夏の席を指定した。
「新見、お前の席は冬野の隣だ。」
夏は鞄を抱えながら比呂の隣の席へ向かう。近づく彼女の顔をじっと見ていると、比呂の中に古い記憶がよみがえった。
「ひーちゃん、まーくん!」
小学生の頃。笑顔で手を振りながら近寄ってきた少女の姿が頭に浮かぶ。
「…なっちゃん?」
思わず漏れた言葉に、夏が肩を揺らす。
「えっと…どなたでしょうか?」
「私だよ!冬野比呂。小学校で一緒だったっ!」
その言葉に、夏の表情が一気に変わる。驚きで目を見開いた彼女は、手で口を覆いながら言った。
「ひーちゃん…? 本当にひーちゃん?」
「うん!久しぶり!」
夏はその場で小さく跳ねるように喜び、比呂の手をぎゅっと握る。
「まさかひーちゃんにまた会えるなんて! 本当に嬉しい!」
「私もだよ!なっちゃん、転校してからずっと会えなかったし…。」
教室の前の方で咳払いが響く。
「お前ら、再会を喜ぶのはいいが、授業の時間を邪魔するな。」
担任にたしなめられると、二人は顔を見合わせて笑った。
昼休みになり、三人は一緒に昼食をとることになった。
机を寄せ合いながら、比呂と夏は小学校時代の思い出話に花を咲かせる。
「なっちゃん、あの頃と全然変わらないね!」
「ひーちゃんもだよ。でも、髪が短くなったのと、ちょっと背が伸びたのはびっくりしたけど。」
真人は静かに弁当をつつきながら会話を聞いていた。
「そういえば、まーくんも変わったね。」
夏が不意に真人を見つめる。
「変わったって…どこが?」
真人は少し困った顔をする。
「なんていうか、背が高くなったし、雰囲気が大人っぽくなった気がする。…でも、目は昔と同じだね。」
「目?」
「うん、まーくんの目は優しいんだよね。あの頃からずっと。」
真人は少し照れくさそうに目を逸らしながら、
「…変なこと言うなよ。」とつぶやいた。
比呂はその様子を横目で見ながら、小さな胸のチクリとした感覚に気づいていた。
学校が終わり、三人で帰り道を歩くことになった。
懐かしい道を歩きながら、比呂と夏は止まらない会話を続ける。真人は少し距離を置いて後ろを歩いていた。
「まーくん、どうしたの?一緒に話そうよ。」
夏が振り返って声をかけると、真人は少し戸惑った表情で近寄る。
「別に。ただ、こうしてまた三人で歩くのが、なんか不思議でさ。」
夏は微笑みながら答えた。
「不思議だね。でも…またこうして三人で一緒にいられるなんて、嬉しいよ。」
真人はその言葉に一瞬何かを言いかけたが、結局口を閉じてしまった。
比呂は二人の間に漂う微妙な空気に気づきながらも、言葉にはしなかった。
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