猫の拾ってきた出会い
田島絵里子
第1話
うちの猫は、変なものを拾ってくる。
ゴキブリやネズミの死骸はともかく、空き缶やタバコの箱を拾ってくる。と思ったら、今度はツバメのヒナ。
「ミケ、どうしろっていうの」
私は途方に暮れていた。ミケは無邪気な顔をして、ツバメのヒナを土間に置いている。私はヒナにかがみ込んだ。ひどいケガだ。
「あーっ、ママ、それってツバメのヒナ? うちで育てようよ」
部屋の奥から聡が近づき、のぞきこんだ。私は言葉をにごした。
「聡、このツバメのヒナは保健所に連れて行きますよ」
「ええーっ。飼えないの?」
聡がガッカリしたように言うので、私は息子の頭を撫でた。
「法律で決まってるの。それに、これだけ大けがをしていたら、うちで手当は出来ないわ」
「動物病院に連れて行けばいいじゃないの」
聡は駄々をこねたが、私はそれを無視して、息子といっしょに保健所へと向かっていった。
保健所は、動物の体臭と喧騒でいっぱいだった。担当の穂高さんは、折れてしまいそうな細身だったが、瞳も声も穏やかだった。彼女は「応急処置が必要です」とケージの中にヒナを入れる。部屋を暗くし、保温カイロをタオルに巻いてヒナに当てると、さっそく手当だ。消毒液の匂いがした。穂高さんは冷静に診断を下した。
「これは、カラスにやられたケガですね」
人見知りしない聡は、すっかり穂高さんになついてしまった。
「お姉さん、パパは、ずっと前に死んじゃったの」
「そうなんだね。聡くんは、お母さんを守らなきゃだめだよ」
それから穂高さんは、手当の手をとめて、遠い目になった。そして呟くように言った。
「聡くんを見ていると、昔、救えなかったツバメの子のことを思い出します。今度のヒナは、ぜったいに救わなくちゃ」
穂高さんの意外な過去を知って、私は胸が痛んだ。
「頑張ってくださいね」
「有り難う。しかし、どんなものも、死をまぬかれることはできません。そんな現実があるからこそ、ミケも含めて動物たちは、精いっぱい生きている。見倣わなくちゃ」
ミケは満足そうに喉を鳴らしていたが、また外へ駆け出した。
聡は言う。
「今度は、何を拾ってくるのかな」
「トラの子だったりして」
私の冗談にみなは噴き出した。(了)。
猫の拾ってきた出会い 田島絵里子 @hatoule
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