第12話 古の聖女との再会、取り寄せご飯



 ……■庭ハコニワの中に、いにしえの聖女、佐久平さくだいら愛美さんがいた。


「なんでいるんでしゅか……?」


 もう二度と、会えないと覚悟していた友達と、再開できた。

 本来ならうれしいはず……なんだけど。あんな風に感動的な別れをしたあとだったので、若干の気まずさがある。


 愛美さんは『えへへ』とはにかむ。


『あっ。実は……わたしにもよくわからないんです』

「どういうことでしゅ?」


『あっ、その……死に際、やっぱり、【やすこにゃん】と別れたくないなって……』

「やすこ……にゃん?」


 だれ……?


『あっ。その、あっ、あなたのことです……やすこにゃん……あっ、き、キモいですかね……。急に距離詰めてきて』


 やすこにゃん……か。

 ……なんか、あだ名で呼ばれるのって、本当に久しぶり。


 社会人になってから、友達なんてできたことなかった。

 だからこうして、気安い関係の友達って……いいな。


『ぐす……ずびばぜん……調子乗りました……死にます……』

「ああ、まってまって!」


 どうやら私が考え込んでいたのを、曲解してしまったようだ。


「愛美しゃんに、やすこにゃんって呼ばれて、うれしかったんでしゅ」

『あっ、えっ、ほ、ほんとですかぁ~♡』


「はいっ」

『あっ、えっ、えへへ♡ やすこにゃん……♡』

「愛美しゃん」


 私たちは顔を見合わせ、笑う。

 どうして彼女がここに居るのかわからない。


 でも……できて直ぐお別れになってしまった、友達と……また再会できてうれしい。


『話を戻すとですね。死にたくない! やすこにゃんと別れたくない! って強く念じたら、なんか白銀の糸が伸びてきてね、ぐんっ! と引っ張られたと思ったら、気づいたらここにいたんだっ』

「白銀の……糸?」


『あっ、はい。その……にょろっと伸びてて、なんか白い蛇みたいな感じで……』


 にょろっ。


『そうそう、こんな感じ……って、えええええ!?』


 愛美さんが見やる先には、ましろがいて……。


「ええっ? ま、ましろたん!? し、尻尾が……のびてましゅ!?」

「みゃっ」


 ましろの尻尾が白銀に輝き、それがロープのように伸びていたのだ。

 私が驚いてみせると、ましろはフフン、と鼻を鳴らす。


 そしてましろは私の足下へやってきて、すりすりと頬ずりをする。

 興味を引きたかったのだろうか。いや、確かに興味を引かれたけども……。


「【鑑定】」


~~~~~~

かぎしっぽ

→猫神の尻尾。霊体でできてるため、どこまでものび、何でも捕縛することができる。遠くにひっかけて、体を引っ張ることも可能

~~~~~~


「どうやら、ましろの隠しスキルだったみたいでしゅ」

「うみゃん」


 話をまとめると……。

 どうやら、ましろが愛美さんの消えたくないという願いを感じ取ったらしい。


 愛美さんが成仏する前に、かぎしっぽスキルで、彼女の霊体をキャッチ。

 この■庭ハコニワに入れた、ということらしい。


『あ、ど、どうしてましろにゃんは、■庭ハコニワにわたしを入れたんでしょうか?』

「うにゃ~?」


 ましろがじろり、と愛美さんをにらみつける。 

 シュッ……!


 ましろは愛美さんめがけて、猫パンチを放った。


『ぎゃっ!』

「にゃ! うにゃ!」


 てしってしってしっ! 

 凄まじい早さで、ましろが猫パンチを放つ。

 そう、猫って結構パンチとか打ってくるのだ。

 しかもめちゃくちゃ早い。


『痛いっ、痛いですっ。ましろにゃんっ』

「にゃー!」


 てしっ!


『ひぃ! すみません! 調子乗ってすみませんでした、ましろ様……!』

「うーみゃ」


 ふんっ、とましろが鼻を鳴らすと、猫パンチを辞めてあげた。


「ましろ……どうして愛美さんに猫パンチなんて?」

「みゃーお」


 つんっ、とましろがそっぽを向く。


『あっ、わたしがその、調子乗ったからです。ほら、ましろ様、神様なので……』


 ああ、なるほど。

 

「でも、私はいいんでしゅか?」

「みゃっ♡」


 ましろが私の足に頬ずりしてる。

 どうやら私は飼い主だから、様付けしなくていいみたいだ。


『まっ! 何はともあれ、今日からわたし、ここでご厄介になりますので!』

「愛美しゃんと旅ができて、私……うれしいでしゅ!」


『えへへっ。わたしもですよ、やすこにゃんと一緒に旅できて……あいたっ! いたたたっ!』


 ましろがまた猫パンチを繰り出していた。


『ましろ様もいらっしゃりましたね! すみません!』

「うみゃ」


 新しい旅の仲間ができて、私の心は弾んでいた。


『あっ、で、でもすみません……わたし、やすこにゃんに、聖女スキルやら魔神の鞄トリック・バッグを譲渡してしまったから、何のお役にも立てなくて……』

「しょんなの、気にしないくだしゃい。一緒にいるだけで、心強いでしゅ」


『やすこにゃん……あっ、あっ! 痛い、痛いですぅ~』


 ましろが猫パンチを連続で繰り出していた。


『すみませんっ、ましろ様のやすこにゃんを取ったりしないですから!』

「みゃー!」


『ほんとですってばぁ、信じてくださいよぉ……!』


 ……ん?

 あれ……。


「あの……愛美しゃん」

『あっ、な、なんですか……?』


 てしてしてし、と連続猫パンチされてる、愛美さんに、私は尋ねる。


「なんか……ましろと会話してません?」

『えっ? あ! そ、そういえば! わ、わかります! あっ、ま、ましろさんの言葉が!』


 ましろが「にゃ?」と泣き声を発する。


『【ほんとに?】ですって!』

「うーみゃ?」

『【嘘ついたら猫パンチの刑】……ひぃ! 嘘じゃあないですっ!』


 ましろが目を丸くしてる。

 ……やっぱり、ましろの言葉を、愛美さん理解できてる。


「な、なんででしゅか……?」

『あっ。た、多分……かぎしっぽで、霊体同士が、繋がったからじゃあないでしょうか』


 霊体とは、つまり、魂だけの存在。

 愛美さんと、ましろは、魂同士をかぎしっぽで繋がってる状態。


 だから、思いが伝わる……ということだろうか。


「うーみゃっ!」

『え、あ、はい。わかりました。ましろ様がこうおっしゃっております』


 みゃっ! とましろが鳴く。


『【おなかへった!】ですって』


 ……ほんと、ましろはマイペースだ。

 でも私は、ましろのこういうところに救われている。

 

「しょうでしゅね。ご飯にしましょう」

「みゃ!」


 と言っても、食材なんてない。どうしよう……。


『そんなときは! 取り寄せ鞄を使うのがいいですよ!』

「確か、地球から商品をとりよせられるんでしゅよね?」


『そのとおり! あっ、で、でも異世界のお金が必要ですけど』

「おかね……ないでしゅ」


 ちょんちょん。

 ン……?


「ましろたん? 何咥えてるの?」

『【おかね】ですって……ええっ!? おかね、どこから!?』


「みゃーお」

『えっ、【そこのヒキニートの部屋から】ですって? あっ、た、確かに! あの部屋に使ってないお金おいてありましたけどっ! ヒキニートってひどい……』


「み゛ゃ?」

『ひっ! なんでもないですましろ様ぁ……!』


 どうやらましろが、こっそりあの部屋から、お金を持ち出していたようだ……。


「いたじゅら猫でしゅね」

「みっ」


 こてん、と可愛らしく首をかしげるましろ。

 あざとい。


『あっ、その、まあ、何はともあれそのお金があれば、食事でもなんでも取り寄せられますよっ』

「みゃー!」


『【ちゅーる!】だそうです』


 チュールか。

 好きだったものね、チュール。


「わかったでしゅ。取り寄せ……どうすればいいんでしゅ?」

『お金を握った手を、魔神の鞄トリック・バッグに突っ込んで、欲しいものを念じるんです』


 やってみよう。

 ……というか、ここ、魔神の鞄トリック・バッグの中なのに、どうして私、鞄持ってるんだろうか……。


 まあ、それはどうでもいいか。

 私は魔神の鞄トリック・バッグに手を突っ込んで、チュールと念じる。


 手を引っ張ると、そこには……。


「みゃ~~~~~~~~♡」

『【ちゅーるだぁあああ♡】だそうで』


 ましろがぴょんぴょんと跳びはねている。

 本当にチュールを取り寄せできた……。


 このスキルがあれば、食料に困ることはなさそうだ。

 ぴりっ、とチュールの封を切って、彼女に舐めさせる。


「うみゃあ♡ うみゃああ♡ うーーーーーーーみゃあ♡」


 ましろがうれしそうにチュールをペロペロする。


『あっ、やすこにゃん、ご自分のご飯を食べててください。ましろ様のお世話は、あっ、わ、わたしがやりますので』


「できるんでしゅか……?」


 ふわ……とチュールが宙に浮く。


「こ、これは!?」

『あっ。ど、どうやらポルターガイスト現象を起こせるようです。あっ、えへへ、わたし……幽霊ですので!』


 ……幽霊ライフを思いのほか満喫してるな、この人……。

 まあ、面倒を見てくれるのなら、任せておこう。私もお腹減ったし。


「えっと……」


 お金を握った手を、鞄に突っ込む。そして……出てきたのは、菓子パン。


 大好きな、甘い……クリームパン。

 封を切って、一口食べると……口の中に甘みが広がっていく。


「うみゃあ……」


 ぽろりと涙がこぼれ落ちた。もう、地球のご飯は二度と食べられないと覚悟していたから。


「おいしいでしゅ……ありがとう、愛美しゃん」

『へ? あっ、ど、どういたしましてっ』 

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転生幼女は愛猫とのんびり旅をする~「幼女だから」と捨てられましたが、実は神に愛されし聖女でした。神の怒りを買ったようですが、知りません。飼い猫(最強神)とともに異世界を気ままに旅してますので 茨木野 @ibarakinokino

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