第8話 古の聖女の力を引き継ぎ強くなる



『あっ、あらためて初めまして! あっ、わたし佐久平さくだいら 愛美って、あっ、いいますっ! え、えへへへ……♡ 同郷のひと……久しぶり! あっ、え、えへへ……うれしいなぁ……!』


 どうやらこの死体、というか幽霊、佐久平さくだいらさんって人らしい。

 いにしえの聖女っていうし、厳かな雰囲気の人かなって思ったんだけど……。


『あっ、実はわたし、あっ、人との話すのもうずいぶん久しぶりで! しかも日本の人とかもういつぶりだろうっ。あっ、き、キモいですよねすみません……』


 なんだか、とってもおしゃべりな人だ。

 しかもいちいち言葉の最初に、「あっ」て付けるし。


 コミュ障な人なのかな……。


『あっ、その、すみません。あっ。わ、わたし……その、ヒキニートでして』

「ヒキニート……?」


『あっ、はい。向こうでは虐められてて、引きこもりだったんです。小学校からずっと、学校通って無くって……』

「それは……なんと言えばいいのか……大変でしゅね……」


『うっ、うっ……いい人ですねあなた……こんなヒキニートと、話してくれるなんて……』


 ヒキニートさん、もとい、佐久平さくだいらさんは、色んなことを教えてくれた(一方的に)。


 佐久平さくだいらさんは、大昔に、この世界に聖女として、私と同じく召喚された女子高生だったらしい。


 彼女は、当時の王族に連れられ、王都で聖女として活動することになったそうだ。

 だが……聖女としての活動は、あまりに過酷だったらしい。


 思わず嫌気のさした彼女は、城を抜け出し、元の世界に帰るべく、帰還方法を探したそうだ。

 しかし方々手を尽くしたけど、帰る方法はついぞ見つからなかった。


 一方で、国は逃げ出した聖女をなんとしても捕まえ、ただ働きさせようと、猟犬のごとき執念で追い回したという。


 結局、人の寄りつかない、この場所へと帰ってきた。

 以後、ずっと、死ぬまで引きこもっていたそうだ……。


『あっ、あはは! こっちでも向こうでもひ、ヒキニートとか! あはは……! ウケますよねぇ……!』

「……可哀想」


 なんだか、話を聞いてるだけで、可哀想に思えてきた。

 勝手に連れてこられて、こき使われて、あげく……犯罪者のような扱いを受けるだなんて。


 私も……一歩間違っていたら、佐久平さくだいらさんのようになっていたかもしれない。

 幼女の姿では無く、OLの姿で、転移してきていたら……。


『わたしを哀れんでくださり、ありがとうございます』


 佐久平さくだいらさんは、うれしそうに微笑む。


『そうだ! ここで会ったのも何かの縁です。あなたに、わたしのチートアイテムをプレゼントしちゃいますよ!』

「え、いいんでしゅか……?」


『はいっ! あなたは、わたしのことを悼んでくれました。とてもいい人です。あなたの異世界生活が、少しでも豊かになるように……あなたに、力を与えたいんです』


 正直、助かる。

 力はいくら合っても、困ることはないから。


「本当に、いいんでしゅか?」

『もちのろんです! その、死体が持ってるバッグが、チートアイテムです』


 私がチートとともに異世界に来たように、佐久平さくだいらさんもまた、チートアイテムを持ってこっちに来たようだ。


 私は、彼女の死体が大事に抱えていたバッグを持ち上げる。

 黒ずんでいたバッグは、私が触れると、まばゆい光とともに形を変える。


 黄色の、可愛らしいポシェットへと変化した。


『それは、わたしのチートアイテム。その名も、【魔神の鞄トリック・バッグ】、です!』

魔神の鞄トリック・バッグ……?」


「たくさんのチートスキルが付与された、魔法の鞄です!」


 私は魔神の鞄トリック・バッグを鑑定してみる。


~~~~~~

・取り寄せ鞄

→地球から食料などを、取り寄せ可能。

※お金が必要


変幻自在鞄ファッションバッグ

→装備中、自分を含めた姿を自在に変えられる


■庭ハコニワ

→カバンの中に、もう一つの異空間を作る~~~~~~


 どれも……大変有用なスキルばかりだ。


『取り寄せ鞄は、お金をいれて念じれば、地球のアイテムを取り寄せ可能です! 漫画も菓子パンもカップ麺も取り寄せ放題! ヒキニートの必需品!』


 続いて、変幻自在鞄ファッションバッグ


『これは魔神の鞄トリック・バッグを装備していれば、自分の来てる服、身につけてるもの、鞄そのものも、姿を自在に変えられるよ。試しにやってごらん』


 私は魔神の鞄トリック・バッグを抱えたまま、念じる。

 すると、可愛らしい旅装へと、一瞬で変わった。


「みゃー!」


 てしてし、とましろが尻尾で地面を叩く。 多分拍手してるんだろう。


 確かに、さっきまでのダサいワンピースより、今のほうが可愛らしい。

 タイツにスカート、そしてケープ。そして……帽子。猫耳が生えてる。(部屋の中に鑑があった。多分取り寄せたんだと思う)


■庭ハコニワっていうのは、そのバッグの中に別の空間があるんです。野宿するときとか、その鞄のなかに入って夜を明かすと良いでしょう。中に建物もはいってますので』


 た、建物っ!?

 ましろが鞄の中にぴょんっ、と入る。

 そして、顔だけ出して、「みゃ~♡」となく。


『猫さんは気に入ったようですね』


 あとで……私もちゃんと確認しておこう。

 まずは……ぺこっ、と私は頭を下げる。


「こんな便利なもの、ゆじゅってくだしゃって……ありがとうごじゃいましゅ」


 佐久平さくだいらさんは微笑みながら、言う。


『いいです。もうわたしには、必要ないものですから。さーって、これでもう思い残すことはありません。さっさと逝きます』


 ……明るく振る舞ってるけど、彼女は、不安なのだろう。

 彼女の魂は、果たして……どこへいくのか……。


「ここで死んだら……どうなるんでしょうか……」

『わからないですね。わたしの元いた場所に帰れると……うれしいな。死んだ、パパとママに……会えると、いいなぁ……会いたいなぁ……』


 ……死んだらどうなるかなんて、私にはわからない。

 天国があるのかもしらない。


 ……でも、彼女の死体を、ここに残しておくのは、可哀想すぎた。


「あの……佐久平さくだいらしゃん。貴女の死体……連れてってもいいでしゅか?」

『え? それは……いいけど。でも、どうしてですか?』


「だって……ひとり、残るの、かわいしょうでしゅ……。しょれに! 私が旅してるうちに、現実の世界に、帰る方法、見つかるかも! そしたら……あなたの死体を、向こうの……あなたの実家のお墓に、届けてあげましゅ」


 確かに向こうに未練はない。

 でも、もし旅の途中、帰る手段が見つかったら……この人の死体を向こうに届けてあげたい。


 私に、こんな便利なものをくれた、この人のために。

 親切にしてくれた人に対して、何もしないのは……人としてどうかと思うし。


『あっ、あはは……うれしいなぁ……』


 しゅうう……と佐久平さくだいらさんの姿が、どんどん消えていく。

 成仏するんだろう。


『ありがとうございます。本当に、うれしいです。……そうだ、最後に……手をだしてください』

「手……?」


 私が佐久平さくだいらさんに手を伸ばす。

 きゅっ、と彼女が私の手を握る。


 ぽわ……と私の中に、何か強い力が流れ込んでくるのがわかった。


『貴女に、聖女の力を継承しました』


『条件を達成しました』

『聖女スキルがレベルアップします』


~~~~~~

聖女スキル

・結界lv10

・治癒lv10

・浄化lv10

~~~~~~


 3だった私の聖女スキルが、一気に10になっていた。


『これで本格的にお別れです』

「っ! しゃようなら、佐久平さくだいらしゃん」


『その……最後に、その……名前で呼んで欲しいなぁって……』


「じゃあ……愛美しゃん。ばいばい!」


 愛美さんはうれしそうに笑うと、煙のように消えてしまった。

 ……私は目を閉じて、祈った。どうか、彼女の魂が、元の世界の天国に、いけますようにと。


 

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